チーズを使った料理には、まだまだ可能性の残された美味しさがあるようだ。そこには、直接口にする時にも、形状であったり、食感などに未経験の美味しさが隠れているというのが、メーカーの主張すべきことのようだ。もちろん、商品単独に棚に並んだ種類だけを分類しても、既に無限といえるほど市場に存在する。柔らかいものから硬いものまで、口当たりのみならず、風味や塩気までも様々だが、さらに、チーズの持つ形状の違いによる食感の違いにも、目を付けてきたと言うわけである。チーズを薄くしたスライスチーズ、上から降りかけれる粉チーズ、そして様々な使い方が出来る「割けるチーズ」がそれである。それらは、いずれも料理を豊かで味わい深いものにしてきた。
割けるチーズと言うのは、相当古くから出回っているにもかかわらず、地道な人気の中で、少しづつ改良が加えられてきた。実は、これに似たものを私は知っている。あくまで似たものという程度だが、それは「蟹カマ」である。割けるチーズは、暖かいうちに「伸ばしては、折り曲げ、また、伸ばしては、折り曲げ、その操作」を繰り返すことによって繊維状の形を構成する。しかし、蟹カマは細かく裁断することで、蟹肉の食感を得ようとしたものである。大昔(40年ほど前)に食品会社にいたことがあるが、その工場の片隅で幾度となく蒲鉾を使った特別注文品として作っていたのを見たことがある。左右42cm厚み5.5cm奥行き80cmもある(=上表面が5mmほど朱色に塗られている)大きな蒲鉾を縦横に順序正しく何回も裁断して、最終的に2mm角の5cmの長さにまで細分化する。それは大変精度が必要で、おまけに手間も一際で偽物という指摘は免れないまま、それでも採算性に課題を残していた。当時は、まだ限られた納入先向けの試作品レベルだったと思う。
この2つの共通点は、食材に巧妙な「ほぐれる細工」を加えることで、より優れた食感を求め、その独特の食感によって、食感→食欲という付加価値を創造し、最終的に商品販売力に繋げると言う思惑である。うーむ、それにしても、かなり遠回りな戦略と言えたものだ。しかし、僅かな食感に優れた可能性を見出す人たちがいたようだ。そこに、素材から製品までの製造工程に、日本人ならではの「職人的要素と、他では真似のできない高い技術」が使われている。その、高い技術力を販売に結びつけるところが、独自の創造性というべき「日本のものづくりの原点」に繋がっているのである。今では、人気の高い「蟹カマ」を作る製造機械そのものを、全世界へ輸出している。
ブロックのチーズだと、適当に裁断してそのままおつまみにするしかないが、割けるチーズには独自の特徴がある。それは、割く細かさによって食感が異なり、そのまま食べるだけでは到達し得ない「柔らかい空気感と渾然一体化した食感」を実現できるのである。また、割く度にチーズの中に埋め込まれた風味のようなものが漂い、それを料理に乗せたり、料理と混ぜ合わせたりすることで、料理の持つ味わいに奥行きが加わったり、時にはドレッシングのように料理全体の風味を増したりと、様々に使い分けることが出来るのである。
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