2010/12/30

紅ずわい蟹のおこわ

 田舎のお正月は、近くの親戚や知り合いが顔を出す。もっとも、楽しみに待ちこがれているわけでもないが、来ればそれなりに何かもてなしをしなければならない。年末から、そのための準備に余念がない。お酒さえあれば良いという人達には、「加茂鶴」を出せばよいので簡単だが、料理と言うのは案外難しい。種類をたくさん出してもうんざりされるだけだし、広島では、牡蠣料理のアラカルトを出しても、大して珍しがられる事もない。やはり、独創性が要求されているわけである。そこで、今年は手軽な完全パッケージの食材を加えてみようと考えたのである。たくさんは食べられないという人にもぴったりで、すぐに帰りたがる客人にもお持ち帰り可能である。やはり、少しだけ珍しい物が出ると、目で楽しんで、箸でつついてみると、気持ちも楽になって、屈託のない話が展開されると思うのである。気に入ってもらえば、2個でも3個でも食べてもらえば良い。
 
 かつて母が正月に腕を振るっていた頃は、隠しだまのような料理まで作って用意していたので、その頃が懐かしく思い出されるが、今はその様な習慣もなくなり、重箱におせち料理を入れることすら面倒で、何かにつけて購入したまま保存してあることもある。去年の正月は、「鰻のおこわ」を紹介したが、今年は、「紅ずわい蟹のおこわ」にしよう。ずわい蟹は、山陰では「松葉かに」、北陸では「越前がに」とブランド化されているが、どちらも同じ蟹を指す。瀬戸内近郊の旅行代理店では、冬の味覚として鳥取へ「松葉かに」を食べに行くツアーが人気で、この時期の旅といえば温泉と蟹を結びつけたものが多い。もっとも、山陰、北陸のみならず日本海側の温泉地では、この「ずわい蟹の需要」によって旅館や民宿も賑わいを見せるようだ。
 
 それだけではない、ずわい蟹の人気は全国的にも高く、年末になるとテレビショッピング等で3kg=9,800円とか、小安く販売されている。本来の山陰、北陸の「ブランド物」、つまり松葉かにや越前かには、「こおらの直径」が12cm~14cm程度で一杯30,000円~50,000円である。これが蟹は高いと言うイメージを作り上げてきたが、これらは五体満足で、美しい姿や形を楽しむ要素が高いからである。つまり、逆に「パーツ単体には価値がない」といえる。したがって、お腹いっぱい蟹を食べたい人には、足だけとか、食べやすいところが、安くてたくさんあると嬉しいに違いないが、匂いも強いので、別の意味で保存に困る食材でもある。ほどほどに取り寄せた方が良い。

 と言っても、ボイル後の冷凍物を送ってもらうよりも、その場の茹で上がりを戴くのが美味しい。だから蟹が採れる場所まで出かけて、温泉でゆったりして、部屋でゴロゴロ、食っては寝て、起きたら温泉する、というのも最高なのだが、色々とその条件や距離感、おまけに時間の制約等を考えると、かなり前もって準備が必要なので、億劫な話である。そんな、食欲中枢と大脳の駆け引きによる紆余曲折があったとしても1つの結論として、蟹の加工食品を用意してお茶を濁すのも安上がりでよいと思ったのである。しかも、この程度の価格だと、現地に行った気になれば、冷凍庫いっぱい買っておいても、お釣りが来る。また、2ヶ月保存も効くので食べ飽きることもない。ま、残念には違いないが、こうやって、こたつに入って「紅ずわい蟹のおこわ」を戴きながら、雪のちらつく日本海の荒々しい風景を思い浮かべて、時折、身震いしながら食べるのでよいと思うのであった。うーむ。
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2010/12/28

金胡麻ドレッシング

 今年の初めに、浅草今半の牛肉とすき焼き用のタレということで、「牛肉と割下」の話を紹介したが、今日は、胡麻風味でたいへん美味しい「人形町今半の金胡麻ドレッシング」を紹介したい。金胡麻とは、胡麻の皮の色によって分けられた胡麻の1種である。胡麻の皮の色が白ければ白胡麻、黒ければ黒胡麻、そして黄色や茶系色の皮の色を金胡麻と称している。特に、このドレシングは、高級料亭のお味とでもいえるような、上品で高級感のある美味しさになっているので、若者から年配の方まで、かなり、御気に召してもらえるに違いない。

 もともと胡麻自体は、体に良い事が古くから知られており、不老長寿の薬とも言い伝えられてきた。胡麻には、微量にセサミンという物質が含まれていて、それを上手に取り出し、効率よく体に吸収させるために、ウイスキー・メーカーが研究を重ね、体に良いビタミンEと組み合わせて、健康食品にすることに成功している。その、セサミンとビタミンEとの関係 を見ると、ビタミンは肝臓に届くと活性酸素によって酸化してしまうが、セサミンと一緒に入るとセサミンが先に酸化されるのでビタミンは酸化されずに、全身に行き渡り抗酸化物質として機能するようになる、ということらしい。そのセサミンとビタミンEを組み合わせたセサミンEに、さらに最近では、DHAやEPA、ロイヤルゼリー、Q10、プロポリス等とも組み合わせた商品等も豊富に用意されている。

 ゴマに含まれる特有の抗酸化成分は、総称として「ゴマリグナン」といわれ、それには、セサミン、セサモール、セサミノール、セサモリノール、セサモリン、ピノレジノールが含まれている。ゴマリグナンは、煎ることで抗酸化力が増加するらしい。ゴマリグナンの中の1つセサモリンが、一部煎ることで分解し、より強いセサモールという抗酸化物質を生成するようだ。胡麻の効能としては、老化防止、ガン予防、肝機能改善、二日酔い防止、滋養強壮、動脈硬化予防、高血圧防止、ストレス抑制、貧血防止、眼精疲労、そのほか、近年、育毛にも効果、細胞の活性化=内臓の衰えや傷を治す、便秘の解消 等が挙げられており。かつては、胡麻を煎って香ばしくして、すり鉢で擦って使うなど日常的であったが、最近は手間の掛かる事がどんどん消えていく。そう考えると、昔から伝えられてきた胡麻による健康法は、理にかなっていたようだ。

 さて、この「金の胡麻ドレッシング」には、大量の「すりつぶされた胡麻」が入っており、そのドレッシングとしての美味しさとあいまって、野菜をモリモリ食べる事が出来る。このドレッシングの特徴としては、酢とオリーブオイルを使ったさっぱりしたドレッシングとは異なり、濃厚な仕上げになっているため、野菜のみに使うドレッシングとしても満足度は高いが、シーフード、冷シャブ、冷やっこなどにも使える。また、味噌ラーメンなどに少し加えると高級感も出る。ドレッシングは一種類では飽きが来る事も多いので、1つ、この「金胡麻ドレッシング」を食卓に加えてみるのも良い。毎日少しづつでも摂取し続けると、上記のような効能が得られる可能性があるのも嬉しい。
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補足 胡麻を食べる時の状態は、煎った後にすりつぶされるのがよいとされる。まれに、胡麻風味とか、胡麻入りとかの胡麻がそのままの姿で入っているドレッシングも多いが、胡麻の効能を重視するなら、せめて胡麻がすりつぶされている商品を選択すべきである。

2010/12/24

美味しいハンバーグ

 何年か前のことだけど、食肉偽造問題が発覚してから、食肉加工食品に関しては、よりシビアな視点が注がれてきた。今日紹介するハンバーグもその様な食肉加工食品の典型例といえる。ハンバーグ自体はポピュラーな商品なのに、案外小安い商品が多く、ただ小安いという理由だけで不安がよぎり、手に取る事は少ない。しかし、自分しか食べないので、自作するにはスケールメリットもなく、美味しい商品があれば買っておきたい物の1つである。その価格の目安として、単品として1gあたり2.5円から3.5円つまり、1個150gで 375円~525円 が望ましい価格帯で、スポット的なターゲットとして1個450円と心得ている。このあたりは、食品会社にいた頃に得た価格感覚である。何かにつけて、その時代の視点が邪魔をするけれど、時おり、商品によっては、そんなに安く作れるはずはないと思う事も多い。

 一般的に、野菜や魚は別として、特にお肉の加工食品は、調味料やフレーバー、防腐剤などによって味が決まると言ってよい。工場から出荷される時は、「こんなに美味しいと売れるよな」と思っていても、時間が経過したものを口にすると、案外そうでもない。小安い原材料を使って味付けや香料に工夫をしたものほど時間が経つと美味しさが「へたる」のである。だから、商品の宣伝文句に「原材料に拘った」と言う言葉がよく使われるが、出来るだけ不必要な添加物を入れないのが良い。出荷時はもとより、時間が経っても、素材のよさは残りやすいので、最初から最後までそれなりに美味しいと思えるのである。つまり、それこそ原材料に拘る重要性を痛感するのは、製造者自身であると言っても過言ではない。

 食品加工で一番問題になるのが、原材料の品質のばらつきである。顧客の口に入る時には、やっぱりこの会社の製品を選んでよかった、少々高くても納得できる、などとと思ってもらわなくてはならないにもかかわらず、原材料の品質は加工技術だけではどうにもならないからだ。少しでも味が落ちたと思われると、コストダウンしたのではないかとか、品質が劣化したのではないかと推測されるからだ。そのあたりの難しさは、長い歴史の中で、原材料の入手先を多数契約することで乗り切るしかない。すると逆にその製造部門は、原材料を消費する為の商品を専門に製造するように変貌してしまうわけで、やはり、歴史のある専門店はそれなりに安定した品質で価値が高いと言うことにもなる。それは、たやすく真似のできることでもない。

 今日の写真は、六合ハム販売株式会社のチーズ入りのハンバーグで、1個 490円である。チーズのないタイプも同一価格で、どちらも美味しい商品といえる。熟成ロースハムもベーコンも美味しいので並べてみた。いずれの商品も食肉科学研究所による特定JAS製品で、工場内の品質管理は徹底したものがあり、お肉の美味しさがそのまま残っていて、品質は大変優れている。他社品に比べて、全体的に少々高額になっているが、それだけのことは十分感じられる。
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補足:美味しさが「へたる」=味のバランスを崩して、元の状態がわかりにくくなること。

2010/12/21

俵屋第2弾 御召列車

 昔から、よく使われていたかどうかはわからないが、「食感」という言葉は、大変便利だと思う。というのも、今日のように、いくつかの種類の和菓子の味を表現するのに、最初からかけ離れた表現でもなく、かといって、ただ美味しいという無頓着な表現でもなく、美味しさの評価が2つの方向から構成できる事を示唆している。たとえば、「食感が良く、美味しい」といえば、実際に食べた人の言葉として扱われそうだが、ただ「美味しい」では、社交辞令かもしれないし、単に売主の宣伝文句かもしれないという推測に終わってしまうからだ。特に和菓子は、それこそ食感を重視して作られている為に、さらに細かい口腔内の感覚を言葉にすることで、情緒溢れる表現として、美味しさを伝得る事が出来るのである。たとえば、「とろける舌触りと薫りで美味しい」とか、「微妙な歯ごたえと喉越しで美味しい」とか、「じわーっと溶ける瑞々しさが美味しい」とか、口腔内での親和性のよさで評価する表現ができるようになる。

 さて、和菓子ほど職人的気質や、技術やこだわりが重要な創作物は他にない。和菓子はお茶と一緒に戴くことも多く、大概の場合は、複数の人達が一箇所に集まって、品評会のように目の前で直接口に運び入れ、美味しさを語り合って楽しむ習慣もあるくらいだ。和菓子は見た目にも、美味しそうに見せる要素はたくさんあるが、一寸した原材料のこだわりから、製造方法などにも由緒正しい職人の流儀が脈々と流れており、一種の伝統芸術のような品格をあわせて楽しむ事が多い。そのために、新作のお菓子を口にした瞬間、その技術の高さにも驚き、やや半信半疑のまま「うーむ、なるほど美味しいわ」と後口にも感心するわけである。そんな、新たな発見をした時、屈託の無いコミュニケーションのきっかけが生まれることもある。これがお茶菓子の持つ役割の1つといってもよいかもしれない。 

 そんな会話があったかどうか分からないが、昭和天皇がお召し上がりになったお菓子は、今でも、案外世の中にたくさん残っている。もっとも、日常の宮内庁御用達という調達方法とは異なり、こと、甘いお茶菓子に関しては、イベント発注型とでもいうべき、何かの行事とかご旅行などに、必要な量だけ調達されるものである。昭和天皇は、多くの国民から「天ちゃん」と呼ばれ、ぐぐっと親しまれた天皇陛下で、そのくらい、列車と馬で日本全国を旅されることも多かった。そんなときには、必ず行き先の土地にちなんだお茶菓子か、いつものお気に入りのお菓子を召し上がられたと伝え聞いたことがある。私と同じ様に、「天ちゃんも、かなり甘い物がお好きだった」のだろうと勝手に想像するのである。

  今日は、その昭和天皇がお召し上がりになったと伝えられる、俵屋のお饅頭「御召列車」を紹介したい。加えて同じ写真の中には、絵日傘という、京きな粉をまぶした、とろける舌触りの「羽二重餅」、大きさ比較のための、前回と同じ大納言最中の「福多和良」、極上の小豆を使った「白菊最中」を並べてみた。菓子作りの職人にとって、天皇陛下からご拝命を受けることは、今でもそうだが、当時から大変名誉なことだったのである。 紹介するお饅頭、餅や最中はどれも先に説明した、舌触りや、じわーっと溶けこむ食感の美味しさを備えている。
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2010/12/17

手軽に美味しいスープ

 美味しいスープは、それ自体で奥深く、技術が隠された料理の1つである。レストランでもホテルでもスープが美味しいと、それに続く料理は全て美味しい。そのぐらい料理人のセンスが集約されたものといえそうだ。また、その美味しさは、心に深く印象付けられ、再び訪れたいと引き付けられることもある。勿論そうでないこともある。それほど、かつてはホテルのスープの缶詰等も、もてはやされた時代があった。今でもホテルのスープの缶詰は美味しいが、食品メーカーも同種の商品を小安くして、幅広く商品展開してきている。今日は、その様な商品の中から、そのままお湯で暖められるポタージュ4種を紹介したい。いつも朝は、パンに珈琲と決めている人も少なくないと思うが、休みの日にはゆったりと、ポタージュと共に過ごすのもいい。

 厳密に言えば、ポタージュはスープのカテゴリーに属し、より高い満足を追求した物である。スープは、お湯の中で野菜、魚や肉などから栄養分や旨味などが溶け出した液体を指すが、そのスープには、少量だが特徴的な具材が入っていることもある。その殆どは、僅かに色のついた透明の液体で、様々な料理のベースとしても利用される。そんなすっきりと飲み干せるスープはディナーに適している。一方、ポタージュと言うと、スープ的要素に加え、さらにミキサーにかけた、まめ類、イモ類、穀類などを裏ごしした素材が入っていて食べ応えがあり、それ自体が最終的な形になる。ブランチには、そんな腹持ちの良いポタージュがよく似合う。そんな用途を考えると、スープはやや素材的な要素が強いが、ポタージュは1つの料理として完成しており、最終的な形に違いがある。

 今日紹介するポタージュ4種は、宣伝文から引用すると「北海道の豊かな大自然の中で作られた野菜のポタージュで、生クリームやバターなど乳製品でこくと深みの有るリッチな味わいに仕上げてある」と書かれている。化学調味料は無添加ということで子供から老人、病人まで安心していただけるようだ。ポタージュの状態は、野菜のエキスが溶け出していて、さらに野菜の細かい実体も溶け込んでおり、素早く吸収しながらも、それ自体で腹持ちも良いので十分満足感はあるし、冷え込みの厳しい昨今の朝などに戴くと、しばらく暖かさが続き、気分もゆったりとする。

 あくまでも、個人的な趣味になるが、この4種のポタージュを美味しい順に並べると、コーン、かぼちゃ、じゃがいも、ほうれん草の順になる。やはり、ほうれん草は苦手である。内容量は全て160gなので、大き目の珈琲カップに入れると半分ぐらいになる。仕様的には、最近の食品は原材料名も正確に開示してある。アレルギーなどで由来が気になるとか、他方で、成人病予防のため低カロリーが好まれる傾向もあるので、成分の表示には細かいところまで気にする人も増えている。好き嫌いは別として、その4種をPDFにまとめた。写真のパンは2種類とも、いつもの TROISGROS で購入したもので、器に入っているのは苦手のほうれん草のポタージュ。それでも、最近のハインツは自然な感じになってきた。
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2010/12/14

本濱のお昼の定食

 先々週、NGUYENの牛肉の赤ワイン煮を食べに行った帰りに、見付けてしまった和食の店「本濱」へ、早速今日「鯛めし昼定食」(1,200円)に訪れた。その「本濱」へは、JR浜松町駅の北口から線路の下の信号を渡って、文化放送の前を通って右折し50m程先の左側の道路沿いにある。健全な五感を備えている人であれば、目立たないが漂う匂いで分かる筈である。だいたい美味しい物を出すお店は、近くの空気まで美味しい。ついでに言わせて貰うと、美味しいお店は、あまり見てくれにお金をかけない。丁度開店と同時刻の11時30分入店し、着席して大人しく待つ。メニューは昼定食だけなので「音なしの構え」で待機する。しばし(25分ほど)経つと、入店の順に奥の席から膳が出てくる。鯛めしに、刺身、薄味仕上げのあら煮、その他小物2皿が乗っている。表の黒板には唐揚げ付きとあったが、それらしきものは何処にも見当たらない。

 それにしても、何かと都会人は、平素から魚というものに餓えていて、御飯が鯛めしと聞くだけで、密かに「うーむ・・美味そう」とほくそえむかもしれない。そんな人は、このように、お皿にたくさんの刺身が乗っている光景を目にすると少し驚くかもしれない。そして食べ終わって満腹になったならば、何かと周囲に大袈裟な話題として話す事もある。だけど、お昼の定食に魚料理で満足させるのは容易なことではない。仕入れから調理法まで、幾つかの工夫が重ならなければ他店との違いは出せず、客は満足などしないからである。普通に考えるなら、まずは、魚の目利きになって朝早くから市場へ出向き、活きの良い美味しそうな魚を選んで買ってくる。いや、料亭や老舗の旅館ならいざ知らず、上品で小奇麗に焼き魚定食や刺身定食を出したとしても、魚に餓えた都会人の胃袋をそれで満足させることは難しいのである。

 と、まあ、ぐずぐずと能書きを考えていても仕方ないので、記念写真を撮って、とにかく箸を付けてみることにする。鯛めしはかなり本格的な炊き上げで、おまけに焼いた鯛の切り身が上に乗っている。この鯛めしの上に焼いた切り身を乗せる手法は、間違いなく「瀬戸内料理人の手口」である。その一番美味しい切り身を崩しながら御飯と一緒に、ほおばるのが最高なのである。鯛めしは、お代わりができるが、焼いた切り身は乗ってこない。次に、刺身は、たっぷり何枚も何枚も皿に重なっていて、食べ応えはある。刺身は、意外にお腹にたまって、たくさんは食べられない。ここでも実際に困るぐらいの量がある。この2つ皿の構成で、「刺身と鯛めし定食」として出してもよいくらいだ。次に、あら煮の方をつっついてみるが、あら煮というより、あら煮風の煮付けに近く、中身は、いくつかの種類の魚の切り身が煮付けになっている。通常のあら煮のような味の濃さはなく、薄い煮付けのだし醤油に浸っているといった感じである。おっと、この中に切り身の唐揚げが隠れているではないか。うーむ、この意表を突くような感覚は確かに難解ではあるが、これもまたこれで、鯛めしと組み合わせて「あら煮風煮付けと鯛めし定食」が完成しそうである。

 一応食べ終わるのに15分と言ったところか。特別に鯛めしのお代わりをしたわけでもないし、もったいないので、刺身は全て戴いたけれど、あら煮は残してしまった。それでも、「お昼を食べ過ぎると体が辛く」なるようだ。瀬戸内海では、伝統的な魚師風の料理が数多くあるが、この「旬彩 本濱」の仕立ては、それに由来した伝統的なものと、この店ならではの新たな感覚を切り開こうとしている。まさに愛媛県宇和島市の鯛めしに、魚師風仕立ての都会風な新感覚で、お昼の定食作り上げたと言えそうだ。ここでは、純日本式の魚料理としての上品さよりも、豪快な盛り付けで迫り、魚料理に餓えた都会のサラリーマンが納得する量で勝負している。食べ方は、どれも自由自在で特別な流儀等はないし、箸は気ままに進めてよい。さらにお味には、全体的に塩気を抑える工夫が取り入れられてあるため、中高年層にもありがたいといえそうだ。
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 補足1:唐揚げと言っても、もちろん鳥ではなく魚の切り身の唐揚げである。
 補足2:本濱のこの鯛めしは、愛媛県松山市より南の宇和島等の地域で食べられている鯛めしである。したがって、ここのお店で使われている魚は、全て宇和島あたりで毎日採れた魚の直送ではないだろうか。クンクンクン・・そんな印象を受けた。

2010/12/10

飛騨牛ビーフカレー

 その地域独自の特産物をふんだんに投入し、全国で販売できる独創的なレトルトカレーを作ろうとする活動は再び増えている。すでに、独自のアイデアを活かして地域の活性化を進めてきた経緯はあるが、目指す方向性として、高級志向で素材を厳選使用し、味を吟味し尽くした商品が増えている。そして、まれにそんな雰囲気のレトルトカレーを店頭で発見すると、少し気持ちがわくわくすることがある。使ってある原材料に期待を寄せてパッケージの裏に目をやると、美味しそうな能書きが現れる。それが、どのくらいカレーの中味に貢献しているのか気になってしょうがない。ただ、その様な気持ちにさせるパッケージデザインも重要である。先日もデパートの中で、「広島の牡蠣カレー」のパッケージを手に取ってはみたのだが、これが、残念なことに食欲をそそるパッケージではなかった。結果的に美味しいかどうかは、個人の好みになってしまうが、視覚的にはパッケージにも熱意や美味しさを感じられる必要があり、それが手に取る要素にもなっている。

 その次に、重要になるのは小売価格である。一般論としては「お安く手軽にが良い」という気分があるかもしれないが、こと地域特産のレトルトカレーには、その様な価格戦略は返って逆効果で、あくまでも素材と味に拘ったという心意気で、家庭では絶対に作れない満足感を提供することで、再びそのパッケージを探すことになるのである。つまり、価格は少々お高くても、それなりに美味しい個性的な商品であることの方へ価値が移動しているのである。賞味期限も2年ほどあり、単身で赴任している人達や、多忙に毎日を過ごしている方々にとって、温める事が楽しみになるとか、しかも、安全・安心である食品を期待しているのである。

 今日は、全国へ向けて出荷されている、その豊富なレトルトカレー群の中から、岐阜県大垣市で作られている、「飛騨牛をふんだんに使ったビーフカレー」を紹介したい。飛騨牛自体は、元々現在の兵庫県で高い評価を得ている丹波牛と同じ種類で、一流の黒毛和牛の流れである。そのブランド牛のお肉の霜降り断面写真をパッケージにあしらってあり、その感じ方は人それぞれにしても、好きな人にとってみるとストレートに牛肉の旨味が伝わってくるようだ。とかく霜降りの牛肉には、牛肉の旨みと言うべき動物油脂が強い匂いを放つ。これが、牛肉好きにはたまらない薫りになり、たとえレトルトカレーに紛れ込んだとしても、はっきりと本物として識別出来るのである。そして、それこそがこのビーフカレーとしての人気の決め手になっていると思われる。

 実際に口にしても、期待を裏切らない美味しさが嬉しい。上質の脂肪分が溶けて薫り高く、満足感も高い。ただ、カレーは、御飯と共に食べる為のソースの役割もあるので、少々の大盛り御飯も考慮してか、10%程度の容量増仕様(220g)になっている。とにかく具沢山で満足感もひとしおである。また、カレー自体は、ある程度塩分が重要な役割を果たすことから、その調整には神経を使われているようだ。このくらいの塩味の方が美味しく感じると言う人が多かったに違いないとは思うが、私の個人的な感覚だと、若干塩味が効き過ぎているように思える。詳細は、栄養成分表示を参照されたいが、スポーツマンとか活動的な若者向け仕様になっているのかもしれない。
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2010/12/07

八幡太郎義家納豆

 微生物の酵素による働きの1つに発酵がある。これは、微生物が新たな物質を生成したり、分解する事を示している。微生物とは、カビや細菌のことで、カビの働きを利用したものの中に代表食品として鰹節がある。また、細菌の働きを使ったものには、納豆、漬物、チーズ、ヨーグルトなどが広く知られている。さらに、細菌のなかには、分類として酵母と呼ばれるものもあり、これは、パンや酒類を作るときに用いられている。酵母は細菌の一種で、糖質を分解してアルコールと二酸化炭素や乳酸に変える特徴を持つ。そして、最もポピュラーなものとして、それらカビ、細菌、酵母の3つの作用を組み合わせて作られるものに、味噌、醤油、清酒などがある。これら膨大な発酵食品は、古くから親しまれてきた物ばかりだが、どの時代もそれは偶然に発見されてきた。
 
 その細菌や酵母の働きはさておき、それを偶然に発見し、腐っているのではないかと思いながらも、試しに、食べてみた先人達には敬意を払わなければならない。現代に伝わるそれらの食品も、安全と分かっていても、臭い匂いを放つものがあり、それを想定しただけでも、「うーむ、俺にはとても出来ない」と思ってしまうのである。そんな、挑戦者とも言うべき先人のお名前を拝した納豆がある。それが、秋田名物「義家納豆」である。納豆発祥の伝承として、包装紙に由来の説明があり ・・・「今から約900年前、後三年の役(平安時代後期の奥州=東北地方の戦役)で将軍源義家(通称・八幡太郎)が、今の秋田県横手市金沢町にある砦を攻めた時、農民に煮大豆を供出させたところ、入れ物が間に合わず俵に詰めて差し出しされた。数日後、中で豆が香り放ち、糸を引いているので、驚きつつ食べてみると美味しかったので、広く伝えられたのが納豆の始まり」・・・だと書かれている。

 源義家が辿った軍路を、奥州平定(前九年の役、後三年の役)の折りに北上したとされるのが、丹波、甲斐、大田原、水戸、白河、会津、米沢、仙台、平泉、秋田の順路とされており、どこも古くからの納豆の産地として知られている。秋田はその最終地で、そこで初めて煮大豆から納豆が出来る事を知ったのであろうか、900年も前のことなので知るすべもないが、いずれにしても納豆発祥には、戦いという場において、軽量でパワーが出る食品として、持て囃されたような雰囲気が漂っている。さらに体の調子を整えるには、最適な食品である事が早くから発見されたのではないだろうか。また、その義家と納豆が辿った順路を見ても、後に納豆を名物として販売していることから、誰にでも安くて美味しい食品であったことが推察される。

 今日紹介する、義家納豆は(購入価格313円/100g)滅菌処理したワラで包んである。滅菌処理をするあたりは、この義家納豆をより慎重に伝承し、同時により美味しくといった、全く新たな発酵技術を使って再現した納豆と言ってもよい。1970年代には、同じ様なワラを使った水戸納豆(こちらも美味しい)が、都内のデパートなどで販売されていたが、ワラ自体の性質が納豆には適していても、現代の市場環境にはそぐわなかったのかもしれず、その殆どが、衛生的な発泡スチロールになってしまった。それでも、このワラに包まった納豆には、時間と共に発酵が進むようで、ワラの間から香ばしい薫りが漂い、醤油やからしを使わなくても、上品な風味と香ばしい美味しさが広がるのを体感できる。
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 補足1:pdf 写真は、質実剛健の日本的朝食のおかずの一部として納豆を撮影してみた。最近、和の朝食を忘れかけた人がいたら、これを見て思い出し、ちゃんと食べるようにして欲しい。

  補足2:製造元のヤマダフーズは発酵へのこだわりが強く、この最先端のバイオテクノロジーともいえる「菌」の操作に着目し、独自の研究を続け、何十種類ものオリジナル納豆菌を開発し保有しているという。

2010/12/01

NGUYEN(グエン)

 お昼にブイヤーベースか牛肉の赤ワイン煮のランチを食べに行かないか?この11月の最終週28~3日は6周年記念のメニューだという、私には、どちらも魅力的だと思う誘いが飛び込んできた。なのに、そのランチ価格は平常と同じ1000円。サンプル程度の少量かもしれないが、パンとかスープ、珈琲(または紅茶)等も付いてくるらしい。むしろ、いい加減な物が大量に出されるより好感が持てる。場所は浜松町で、新宿から神田へ出る途中に寄れることから、早々にお店に予約を入れてもらう事にした。そのNGUYENは、JR浜松町駅の北口から目の前の信号を渡って2分程度の距離で、路地に入った中程にあった。それは、大都会の喧騒の中に、ひっそりとたたずみ、小豆色の建物に白い窓枠が印象的で、シックで綺麗なお店であった。

  内部の席数は1階、2階それぞれ10組程度で、喫煙と禁煙で階が分かれるらしい、その限られた空間は秘密の隠れ家的な印象を受ける。昼夜を問わず、美味しい空間に浸れそうだ。殆どが女性客で、みなさん話し声も小さく、時折ホークやナイフがお皿に接触する音が小さく響く程度。夕方からはワインなどを傾けながら、ゆったりと時間の流れを楽しむのも良いかもしれない。このようなお店がランチに力を入れるのは、それなりの大きな宣伝効果があるからだ。浜松町と言う場所で、お店の活性化を図るには、常に新規顧客の開拓を心がけなければならないし、常連客からは「何を食べても、いつも美味しい」と信頼されなければならない。料理のベース作りがしっかりしていることは当然だが、飽きのこないバリエーションの豊富さも重要な要素になる。そのあたりに、この店の工夫と徹底ぶりが感じ取れる。

 さて、たっぷりとお昼を戴きたい向きには、ランチの量としては物足りなさを感じるかもしれないが、料理は間違いなく美味しく味わい深い。手の込んだ仕事で、文句のつけようがない。やや家庭的な雰囲気もあり、女性に人気が高いのもよく分かる。自家製のパンは焼き立てで美味しいし、多少の胃袋の大きさの違いは、このパンによって調整できそうだ。勿論、軽い昼食を願う女性達には丁度良い量だと思えるし、一寸だけで美味しい物をと考えている年配の人にも最適である。しかし、それでも物足りなさを感じるようだと、夕方の仕事帰りに寄ってみればよいわけで、この規模のお店としては、堅苦しい感じもなく、丁度良い空気感が漂う。ブイヤーベースの魚の仕事を見ても、的確な調理技術の裏づけを持ち、細かな部分にまで徹底した調理法を伺わせるところが、都会の中で女性の人気を集めている理由なのであろう。

 そして、最後にお勘定を済ませてお店を後にした時、どのような印象が自分を支配するかが重要なのである。このときの印象が再び訪れるエネルギーになる筈だ。もっとも、その日のメニューによっても違いがありそうだが、今日のメニューの、ブイヤーベースも牛肉のワイン煮も、いずれも納得できて、今週は、3日は来てもよさそうだと思えるのである。お店の雰囲気もよく、接客、器やお皿の統一感から満腹感というより、むしろこの店の流儀に納得出来ると思う。特にお皿の模様には、どこか強く魅かれるところがある。この模様が、お店の名称とか、料理の地域性とか、味のまとめ方とか、歴史的な中にも新しさを感じ、それらが漠然とした一体感に繋がっているところも心地よいのである。
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 補足1:NGUYEN とは、ベトナムの王家の姓に由来しているらしい。そういわれてみると、少しアジアンな印象が漂う。

 補足2:NGUYENの前を出て、広い通りを左に行くと、旬彩 本濱(和食の店)を見つけた。WEB検索で何かのついでに拾ってきたのを読んだ記憶がある。このお昼の定食が1,200円でめっぽう安くて美味しいと言う話だったと思う。いつかこちらもレポートしたい。