と背文字が並んだ「週間朝日MOOK」、私は「朝日」と付いた物は大嫌いである。しかし、・・・それでも、「何とも格好の良い写真なんだろう」と思い、つい手に取ってしまった。「左手」で煙草を挟み、「薬指がピーンと伸びて」いるところが、とても印象的である。写真だけでは、刑事なのか、ヤクザなのか、わからないが、紛れもなく文屋の姿でしかない。それは、親しい報道カメラマンが撮影したように思えるからだ。煙草の火の状態まで累意して連写撮影された中の1枚である。煙草の先が赤く燃えているのは、煙を吸い込んでいるからで、その時に、顔の前には、さほど煙は存在しない筈である。しかし、このショットを気に入った編集者は、彼がヘビースモーカーであった事を強調したかったと思われる。煙の大半は写真に後から追加された可能性が高い。
何故、そんな「体に悪い煙草を吸う姿」を表1に選んだのであろうか。煙草を吸うオヤジはいまだに多い。そして、文屋は煙草を止めない。私も先輩3人、同僚1人を煙草で失っている。私の知る限り彼等は、入院するまで煙草を離さなかった。朝などは、そのニコチンが毛細血管の隅々まで行き渡り、初めて普通の人間と同じ状態になる。そして、文章を書き始めると、自らの後ろ頭を殴るように、ニコチンを次々と投与しなければならなくなるのである。その刺激がピークに達する頃、初めて大脳が高速回転を始め、今日の取材と過去の記憶を整理しながら文字にして並べるのである。それは、「多面的な思考を統合して1つの提案を見出す苦悩」を表現しているのかもしれない。つまり、煙草は特に意志の強さに馴染みやすく、文屋の栄養源と化すのである。そんな時、ペンは冴え渡り、その発信された文字列は、勝手に人を引き付けるのである。しかし、そんな姿が絵になるのは、もはや「彼」以外にいないかもしれない。
編集者は、「先輩の最も格好よい姿」を表1にしたかったと思える。そこには、編集屋が考える文屋としての理想が映し込まれていて、きっと、テレビで見る「今日はこんなところです」の気配りの先輩よりも、この時期の「汚れかけた理想と鋭利なバランス感覚を持った」気迫の先輩の方が、格好よく思えたに違いない。 しかし、それでも、まだ煙草を吸うのかと思えるほど、わがままで、それでいて、俺は癌に強いとか屁理屈を並べられる男だったようだ。40年間煙草を吸い続けると肺癌になることは、20年前に取材できていたはずである。それを知りながら、吸い続ける意味は、彼の仕事に対する熱意と裏腹なものだったのではないだろうか。人の話を聞いて、すぐに視聴者を説得できる文章が書けるほど、誰しも芸達者ではない。
例えば、多摩川の氾濫の取材に行った場所で、家が流されそうになっている状況を目にしたとする。家には子供が取り残されているようだ、と聞いて救援隊が来るまでに自分のできることは無いか、命綱1本で自ら助けに行くような、まさに「入り込んだ取材」だったに違いない。そこで、子供の命を救うことが出来たとしたら、「俺も命がけだったんだから、煙草の1本ぐらい許してよ」。そんな言い草が似合ったに違いない。仕事に命を掛けているから、周囲は何もいえなかった。今日、納得する仕事が出来なければ、明日は無い。そんな覚悟にも似た緊張感が毎日周囲に漂っていたような気がする。編集者は、そんな彼の苦悩も伝えようとしている。
雑誌など滅多に読まない私が、表1に魅了されて購入した。様々な分野から著名人(いや、そうでない人もいる)等が寄稿しているので、きっと「昔の思い出や彼を惜しむ文章」が並んでいると思い、しばらく読めずに棚に置いてあった。しかし、ぺらぺらとめくるうち、涙あり、笑いありで卑屈にならずにすんだ。特に、立花隆さんが聞き出した「オーラルヒストリー」が面白かった。もっと、詳しく続きが知りたい。
それでも、やっぱり・・・・・、どの原稿よりも、この写真を表1にした編集者の方が、はるかに彼の本質を伝えていると思う。 「感性をくすぐられる」とは、こう言う事なのか。編集者は、こうやって彼をTBSから取り戻そうとしているのである。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21422&app=WordPdf
注1)MOOKとは、書籍と雑誌の中間的存在で、双方の良いところを兼ね備えている出版物。
書店の取り扱いは書籍並に長い。雑誌のように広告収入も可能。取り扱うテーマは、普遍性が高く、自立した内容を多面的にまとめる。かつては、本誌に対して臨時増刊号、あるいは別冊という扱い方もあったが、こちらは、テーマの普遍性は高くても、あくまでも本誌の補足的な要素が強い。
注2)・・・・煙草は特に意志の強さに馴染みやすく、文屋の栄養源と化す・・・・・とは表現上の比喩で、煙草はまぎもなく毒物であり、優れた文章力を養成する物ではない。