2009/12/18

代官山シェ・リュイ

  師走になって遊びに来いと言われても、俺にも色々都合ってものがあり、返事に困る事があるが、先方はやはり暇なようで是非にと言われ、お邪魔することにした。特別用事があるわけでもなく、ただ、音を聴いてみて欲しいというだけのことである。オーディオマニアは、時々1人では迷いが生じるのかもしれない。だいたい趣味は1人で楽しむものだが、時たま他人様の評価というか、意見を聞いてみたくなるのであろう。そんな余裕をかましていると、酷い目にあうのも趣味の特徴で、自分が気にしていることだけではなく、全く気にもしてなかったところまで指摘されてしまい、結局落ち込んでしまったりするのである。 でも、それが良い刺激になり、そこで進歩が止まらなければ、よいとも思うのである。

 彼の家に着くと、既に真空管アンプには1時間前から灯がともっていた。少々回路が違うとか、部品で音が違うとか言われても、そんな、年に1度ぐらいしか訪れないのに、しかも個性的なアルティックA7の下では、細かい違いなんかわかりそうもないけれど、まだ拘りたいのであろうか、あるいは、自慢したいのであろうか。早速、いつもの「クールファイブの港の別れ唄」を掛けてもらう。たわいも無い歌謡曲だがA7は、ひときわ開放感を漂わせる。最初のアルトサックスのリードに音の厚みがあり艶っぽい。前川清の声の明瞭度にも優れ、中低音の肉付きもよく大型フロアの存在感を見せ付ける。少し音量を上げたところで、A7から離れてみると、それはそれで離れるほどに声の明瞭度、各楽器のパートの分離が良くなり、庭に出て聴いても上々である。さすがにVoice of Theater だけのことはあると賞賛してしまうのである。次に、リストの「超絶技巧練習曲」を聴く。スタンウェインの重量感そのままに、左手の指使いまでリアルに再現出来る能力は、大型の良さでもある。小型の完全密閉型スピーカではちょっとこれは無理だなと感心する。最近のスピーカだと音程感だけなら出るかもしれないが、グランドピアノのスケール感を音にできるのは、かつて金庫と綽名が付いたテク二クスの10000番ぐらいだったと、昔を懐かしむ。中音域の厚みがピアノの弦を叩く感じをよく再現し、余韻もよく残って、その余韻の交錯が心地よい。ちょっと響きすぎかもなと首をかしげる。次は、ベルディのレクイエムからあの、怒りのパートを聴く。目の前で大太鼓を打った時の空気の動くさまや震えの減衰状態を肌で感じる、我が家とは力強さが全然違う。 ただ物理特性に拘ったのと違い、そこに存在する駆動部や振動部の物理量の違いとでも言うのであろうか、例えば、牛乳瓶を落として壊した時の音の違いで表現すると、ワイングラスを壊した時の音が我が家で、半升瓶を壊したときの音がこのA7と思ってもらってよい。少し大袈裟だけど、そのくらい違いを感じるのである。また、このような力強さは、反面デリケートな楽音には不向きな傾向を示し、おのずと音楽ジャンルが限定される。しかし、どのようなジャンルも満遍なくつまらない音を出すより、魅力に感じる事があるに違いない。また、合唱のパートはやや混変調のように濁ってしまっている。それにしても、こんなに大音量なのに、1W行くか行かないかだそうで、今更ながら効率はよく、そこだけは時代に適合した省エネでもある。

 このあたりで、お茶の時間になったが、手ぶらで訪問するわけにも行かず、つい、洋菓子なんぞを買って来たわけだが、何を持ってきても、美味い美味いという夫婦だから、ちょっと難解なものを選んでみた。勿論、自分でも食べてみたいと思うものでもあった。手見上げは、必ずそれがテーブルに出てきて、それは、キャッシュバックのようなものと考えているので、たっぷりと買って来た。その洋菓子見本はPDFを見ていただきたいが、この白い渦巻きになったやつが格別に評判が良かったし、久々に自分も美味いと思った。そこで、自分用に再び買ってきたというわけである。 名称は「モンブランフロマージュ」といい、カップに中になめらかなバニラプリン状のクリームがあり、その上にクリームチーズ入りの生クリームをしぼって仕上げられている。途中2種類のソースが上下に分かれて入っている。この代官山シェ・リュイでは、小安いモンブラン・マロンや、スイートポテトなどが良く売れているが、このモンブラン・フロマージュは、直径70mm、深さ30mm程度のカップで何と1個473円。いわば中身の濃い重量タイプで、アルティックA7に対抗するには、ぴったり来る感じでもあり、なかなか場の雰囲気に合いそうな存在感が気に入ったのである。

 最近は、洋菓子にも健康志向が優先し、甘味を抑えて低カロリーで、軽い洋菓子に人気がある。パクッと食べるにはそれでも良いが、少々味わいを楽しみたい向きには、それでは十分とはいえない。後味にも何となく物足りなさを感じ、血糖値が上昇するまで時間がかかるし、血糖値がエネルギーと化して大脳を刺激し、冴えた発言もなかなか出てこない。そういう時は、個性的でも厳選された素材を「たっぷりと惜しげもなく使った」ものが効果的で、食べ応えが幸福感を増幅する。
 人の好みというのは贅沢に出来ていて、優れた物でも趣味なるがゆえに毎日使うと不満が出てくる事があるし、美味しいものも続けるとすぐに飽きる。この不満や飽きっぽさとどのように付き合うかも楽しむ裏技の1つといえそうだ。
ではこちら
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