2011/09/16

オーディオマニア18

 今まで何度かカセットデッキの話をして来た。「蘇れ!我らテープ党」と呼びかけても、実態がなければ楽しくもないので、現役で動いているTC-K88、CR-40、TT-700Ⅱの3台のデッキの写真を見てもらった。少しは動機づけになったと思う。さて、カセットテープをたくさん所有している人達にとって、デッキが元気な状態にないと寂しいので、神経を使って大切にしてきた人も多いと思うが。何といってもメンテナンスの為に手間とお金がかかる機器の1つである。メーカーへ修理やオーバーホールの依頼をするとしても、費用も馬鹿にならない。さらに、2003年以降では、交換部品がない、修理できる人が会社にいない、などに直面することも多くなった。最終的には、自から部品調達して修復するしかないが、部品入手のための情報源も少ないし、修理できる範囲も限られている。
 
 さらに、メカと電気系が折り重なって機能しているカセットデッキの修理・調整には、絶対的なレベルを記録してある、いくつかのキャリブレーションテープ(基準テープもしくはテストテープとも言う)が必要になる。そこで、少々マニアックな方角へ話題を踏み入れて、カセットデッキの各調整を簡単なプロセスで観てみると、1.走行系スピード調整、2.へッドアジマスの調整、3.再生レベルおよびドルビーレベルの調整、4. 3180μs + 120μs と 3180μs + 70μs の再生周波数特性の調整、次に 5.リファレンステープを使用した、ノーマル、クローム、メタルの録音系のレベル、周波数特性等の調整といった手順となる。この調整の為に必要なわけである。では、キャリブレーションテープは、どこから入手したかと言えば、デッキメーカーで当時外販していたのはTEACのみだったので、殆どの人がTEACから購入して保存してあるとか、あるいは、何らかの方法で、それに近いものを残しているというのが現実だと思う。

 正しく作られたTEACのキャリブレーションテープをデッキメーカー全社が使用すれば、録音済カセットテープのアジマスやレベル、再生周波数特性などの主要な互換性はある程度保たれたはずである。最初はそうであった。しかし、カセットデッキの高性能化が進むにつれて、デッキメーカーは独自のキャリブレーションテープを制作して使用してきたのである。もちろん、ミュージックカセットを販売しているレコードメーカーのデュープリケータに使われているキャリブレーションテープもばらばらであった。このことは、既にこの業界の関係者にとって常識的な話だったが、収束する方向に進むわけでもなく、むしろ、管理できる範囲を高い周波数領域に広げるために、各社理想的なテストテープ用のヘッドを製造することに注力し、市場勢力拡大に努めていたというのが現状だった。ゆえに、我々はこの広がりを適度な範囲に収める必要性を強く感じていたのである。

  このような話をすれば、当時の課題も蘇り、「うんうん、そうそう、と思ってくれる我らテープ党」も少なくないはずだ。ま、写真を見ながら思い出してほしいが、今日のPDF写真は、豊富な我アーカイブスから各社のテストテープを抜き出して並べてみた。これは、「ラジオ技術誌のカセットデッキの測定特集」の全盛時代に「各社の記録済みカセットテープの互換性を探る」というテーマを企画した時に集めたもののほんの一部である。当時から、これらテストテープは高価だったこともあって、現在まで大切にしまってあった。やはり驚くのは Nakamichi の堂々と3180μs + 70μsの再生周波数特性の調整で20kHzが使われているところである。また、Technics のハーフはサンドイッチ状になっていて、真ん中の部分が高精度アルミダイカストになっている。TDKも同じようなアルミダイカストを使ったテープを販売していたが、Techinics と TDKでは、用途も違うためか、精度を要求される構造が異なっている。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211007&app=WordPdf

補足1:たいへんな時間と手間を掛け、高精度に仕上げてあるキャリブレーションテープだが、やはり高価な製品といえる、この写真にあるものは、安いものから高いものまで当時の価格で16,000円~120,000円(1本)とさまざまである。勿論、外販されていないものもある。
補足2:リファレンステープとは、デッキのテープポジション別に推奨されている記録用の基準テープのこと。ノーマル(TYPEⅠ)、Cro2(TYPEⅡ)、Fe-CrO2(TYPEⅢ)、Metal(TYPEⅣ)の代表的な性能を備えているテープで、テストテープ・メーカーが検査評価済で販売されていた。