恐る恐るボリュームを上げると、飛び散るような鮮烈な音が飛び出してきた。端正で明るい中高域はYAMAHA B-3 の特徴である。もうかれこれ20年ぐらい電気を入れてなかったせいか、疲れもとれたようで元気いっぱいである。聴いている方は、随分くたびれてしまったが、この音を聴くと、30年前の若かりし日々が自然に蘇ってくる。1年ぐらい前の話になるが、常用していたBX-1(モノパワーアンプ)の1台が部品不足で修理できない状況になり、2台とも部品取り用としてYAMAHAのサービスに奉納させてもらった。そこで、不安を抱えたまま、奥の部屋からB-3を引っ張り出して音を確認してみたと言うわけである。B-3も悪くはないが、やっぱり、BX-1の重厚で壮大な音づくりは良かったなと、ありがたみをかみしめている今日この頃である。
BX-1もB-3もそれぞれ音の傾向が大きく異なり、勿論、発売年次(80年、77年)やスペック的にも、最大出力、出力デバイス、回路系、部品、物理特性等が異なる。何が違うからパワーアンプでこういう音の違いがあるのか、明確な理由はない筈なのだが、専門家に言わせれば、必ずこじつけをしたがる。たとえば、BX-1は、完全A級アンプなので、電源電流を低歪率化するリニアトランスファ回路を採用して電流歪を低く抑え、電源が音質に影響を与えないピュアカレントサーボアンプを実現しているという説明であったり、B-3の回路構成の、初段はカスコードブートストラップFET差動増幅、プリドライブ段はカレントミラー負荷差動増幅、ドライブ段はプッシュプルドライブ回路、出力段はB-3用に開発されたSIT(V-FET)によるDCアンプ構成で、低域から超高域までピュアな音質を実現したという。まあ、勝手に名称を付けるのも悪くはないのだが・・・・。
ただ、いずれのパワーアンプも、音質対策用の自社製の部品をふんだんに投入してあり、回路方式よりも部品による音質への影響が大きいと思われる。自社製部品をふんだんに投入できる会社の製品は、明らかに音のまとまりがよいという傾向がある。当時は、シャシを開けてみただけで、これは「いい音がしそうじゃ」とか、「全然あかんわ」などと、勝手に決め付けたものである。たとえば、外販されている馴染みある部品が多用されているアンプは、音のまとまりが悪いという印象を持っていた。別にアキュフェーズのアンプを指しているわけではないが、新製品の内部をあけて写真を撮り、そして音を聴くと言う編集屋の仕事柄、そういう経験を積んだわけである。勿論、まったく根拠はないにも関わらず、結果は極めて的確だったと思っている。しかし、このBX-1とB-3の音の違いは、かなり次元の高い比較であって、その手の「どうにもならない違い」ではないことを強調しておきたい。
結局、良い音を追求していくと、部品から半導体まで自社で開発しなければならないという結論に達する。当たり前と言えば、当たり前の話で、音質の管理が様々なジャンルで行き届くわけである。それを、大手メーカーの底力と言ってしまえばそれまでだが、「優秀な人材が高い次元の製品を目指す」には、そういう選択肢しかないのである。それも、オーディオへの取り組む姿勢のバロメータとして評価されるべきである。その視点で YAMAHA というブランドを眺めると、「製品に人が憧れる美的感覚を豊富に盛り込める会社」で、オーディオに限ったことでもないのだが、この分野でも歴史に大きな業績を残してきたと言える。多少の好き嫌いはあっても、傍から見るとよい会社に思える。
パワーアンプは、もっともらしい評価方法の1つに「1Wの価格」で比較されることがある。まったく、八百屋で売られている「みかん一山」いくらと同じだが、その手法で比較してみると、A級モノパワーアンプBX-1は、片チャネル100Wで33万円→100Wx2=66万円である。DCパワーアンプB-3は、元々ステレオで使えるので70Wx2=20万円となる。こういう比較だとBX-1の重厚で壮大な音づくりは納得がゆくものかもしれない。今日は、そのB-3を撮影してある。とにかくYAMAHAのアンプは、全て黒いヘアラインづくめという特徴があり、撮影の前の清掃には手間が掛る。
ではこちら
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