今や、こんな話をする必要はなくなったのだが、オーディオ装置の中で一番厄介だったのは、出力が微小なMCカートリッジだったと言える。特に著名なカートリッジほど、MC(Moving Coil)型が多く、艶やかで力強く、おまけに切れ味のよい音を再生することで、古くからもてはやされていた。通常は、MCカートリッジの微小出力は、昇圧トランスかヘッドアンプを経由しプリアンプへ伝送する。国内で著名な製品は、放送業務用のDENON 103シリーズで、海外製品ではオルトフォンのSPU-AとかSPU-GTEなどがあった。前者はフラットでストレート、ジャンルを問わず Hi-Fi な音質が特徴だったが、後者はクラシック・ファンから支持され、力強いとか、切れ味が良いとかの評価であった。ただ、個人的には後者は歪ぽく聴こえるため対象から外している。
一般的なプレーヤは、いくつかのコンポーネントで構成され、カートリッジの出力はそれらを経由して、昇圧トランスやヘッドアンプ(別名プリプリアンプ)に接続されている。そのカートリッジ→シェル→アーム→出力端子間には幾つかの金属接点が存在し、それらは微小信号に対してダイオードのような振舞いをすることが知られていた。今日紹介するのは、YAMAHAのヘッドアンプHA-2で、従来のヘッドアンプとは異なり、ヘッドアンプ初段の片側のFETをシェルの根元に封入し、もう片側をHA-2本体側に搭載しているところにある。そうすることでMCカートリッジから出力される微小信号は、シェル内部のアンプを動作させるための電源電流に乗ってHA-2本体へ出力される。その電流バイアスによって、その微小信号に大きく影響するあらゆる非直線部分を避けて伝送することが出来るというものである。
HA-2の内部は、マークレビンソン流の樹脂でモールドされたブロック状の箱で構成されていて、全く内部構成は不明になっているが、接続はC-2xなどのプリアンプのAUXに接続する。利得は63.5dB、定格入力電圧 0.1mV、最大許容入力 4.0mV となっており、高出力型のMCカートリッジは使用できない。音質面では、昇圧トランスを使用したカートリッジに対して、一般的に「霧が晴れたように鮮明でワイドレンジな音質」として評価されている。確かに、オーケストレーションでのピアニシモでは、今まで聞き取りづらかった一音一音が鮮明で際立つようになったと思える。また、全体的にひずみっぽさがなくなり、肉付きの良いふっくらとした音に包まれる感じである。一度使い始めると、その圧倒的に純粋な音質に魅かれ、絶対に元に戻ることはできない。・・・・・とはいうものの、誤解のないように。これは、あくまで1979年の最新型であり。その後HA-3という製品も出ている。
PDF写真のカートリッジは、DENON103、同103D、同305 の3タイプで、ソニーのPS-8750のアームに取り付けて使用している。このPS-8750 と、上記カートリッジに関しては、既に「キャンディーズと電線音頭」のPDF写真で使用しているが、今回は、ヘッドシェルの根元に注目されたい。このヘッドシェル根元に搭載されているFET(外からでは見えない)は、本体HA-2内部のそれと同一特性である必要があり、工場出荷時に1個ペアが組まれている。しかし、実用上カートリッジの比較等不便な事が多いので、あえて日本楽器製造㈱にお願いして、特性の揃ったシェルを追加で2個選別してもらった。
ではこちら
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