2013/01/22

ディスカバリー8

  年末に片付けをしていたら、古いフイルムが入った缶が見付かり、中から「初めて自分のカメラで撮影したカラーポジフイルム」が出てきた。色々なところから、古い物が発掘されて整理に四苦八苦しているが、何年何か月前の事だったか、日付等の記述がないのでわからない。当時は「とりあえず仕舞っておこう」という意識だったのだろう。ある筈もないと思っていた写真が出てくると意外に嬉しい。今更、何の役にも立たないが、今日は、これでページを埋めることにしたい。

  入社当初は、誰でも嫌な仕事が待ち受けている。特に、写真撮影は編集屋としての1丁目1番地で、「取材は写真を撮ることから始まる」そんな風に説明される。「こんなカメラは、初めてなんですが」と呟くと、先輩がため息交じりの呆れた台詞で「シャッターを切れば写るよ。あと、ストロボとモータードライブを装着すると重たいから、レンガを使って上げ下げの練習をしておくと手ぶれは減る」とも付け加えられた。当時は、一人前になるには、とことん経験して自ら学びとるもの、という風潮の中にあり、ナイフを突き付けられたとしても「教えてもらってないとか、マニュアルにないとか」口答えができる状況ではなかった。それにしても、露出計のないカメラで何を目安にして撮影したらよいのか困った。何度も何度も「照明と露出時間=仕上がり」の経験を積むしかなかったのである。

 いつまでも、一人前に写真が撮れないと、「あいつは駄目だ!使えねえ」と言われかねないので、隠れて「あらゆる状況を想定した練習」をしなければならなかった。追いつめられると人は本気になる。自分に足りないものを探し、それを補おうと努力する。写真と言えば、運動会や卒業式などの記念写真ぐらいしか考えが及ばなかったのに、それが、諸先輩方と同じように仕上がりを評価できるようになるまでは、しばらく、我慢の日々が続いた。しかし、毎日のように写真を撮っていると、不思議とそれが徐々に面白くなってくる。また、露出計なしの単なる暗箱でも「そこそこ撮れる」ようになるものである。しかし、撮影範囲を拡大するためには、やはり最新式のTTL露出計を搭載したカメラが欲しくなる。そのくらい、当時は露出自体に苦労を強いられていたのである。

 しばらく経験をつんだ頃には、欲しい機種も限定されて、結局我慢できずカメラ・システムを自前で持つことになった。そういう欲求の後の充実感というか満足感は、何物にも代えられない興奮の日々が続くものである。システムと言うのは、ワインダーやモータードライブ、サーボEEファインダ、ブースターTファインダなど、キヤノンF1のシステムを一式揃えたからである。これらのファインダーによって撮影領域の拡大が図れたのである。レンズは、とりあえず仕事でも使えるように50mmマクロから始め、後に85mmf1.2アスフェリカル、24mmf1.4アスフェリカル、TS35mmシフトf2.8、100mmマクロ、200mmf2.8、500mmf8 最後に35-70mmのズームと、次々と勢い余って大して必要もない望遠領域まで揃えてしまった。当時から、そんなマニアでもない代わりに、F1でも「仕事に使える」のか、という実用性としての整備をする気持ちで不安になっていた。

 通常の取材用カメラはニコンFで、ニッコールレンズと相まって「かちっとした切れ味」があり、現像した紙焼きを、製版(凸版)して、それで印刷しても、現像したものよりも綺麗であると思えるぐらい鮮明だった。自前のカメラを持ってからは、何かにつけて自前を持ち歩くようになる。残念ながら、白黒フイルムでは、ニッコール・レンズに比べてあらゆる被写体でキヤノンのFDレンズは甘く写った。個人的に、内心「白黒では使えないな」と結論付けていたのである。階調が優れていても、製版した後の先鋭度がないと仕事用には使えないからである。一方、カラーについては、ネガを使う事は無いので、リバーサルフイルムを詰めて持ち歩く日々が続いた。カラーの場合では、当時のニコンのレンズは、「何を撮っても蒼黒く見え」たし、レンズを変えても傾向は変わらなかった。その点では、明らかにキヤノンの方が優れ、明るく抜けの良い写りに魅力を感じた。最初からカラーに向いていたようだ。

 今日は、冒頭で書いた通り「取材用として初めてリバーサルフイルムを使った時」の写真である。言われる前から言わせてもらうが、絶対的に「つまらん写真」である。何故か!最初に撮った50mmマクロの現場写真でしかないからだ。しかし、かつての「ラジオ技術」読者の方には、同じような写真に記憶があるかもしれない。これも、今から35年くらい前の話である。
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211233&app=WordPdf

補足:オーディオマニア・シリーズとしての視点でまとめても良かったが、あの頃については、オーディオより、写真に想いが強かったので、ディスカバリーにした。オーディオマニアとして取り扱うとしたら、写真に対してどっぷり批判的になったかもしれない。