2013/01/29

水耕栽培の苺

 東北の震災で塩害が残る農地は、当面使えそうもないことから、野菜を水耕栽培で育てるプラントが現実味を帯びて、その工場建設も本格化してきたようだ。まるで半導体工場を思わせるような清潔で安全な場所で作られる野菜は、照射される光の波長で葉の生育状態が変わったり、水に溶け込んだ栄養成分でも味や風味が違ってくるという実験的な段階を経て、様々な課題を克服し、野菜ごとに最適な環境を提供できるようになった。そうやって「新たなイノベーションを伴う復興」は、将来に大いに希望が持てるので、農家の人のみならず消費者にとっても嬉しいことである。
 
 そういう「羨ましい話」は、特殊な環境で、しかも作れる野菜もまだ限られているに違いないと勝手に想像していた。復興予算が付くことで、やや強引ともいえる程に、その手の生産システムを後押ししたのだと受け取っていたからである。そんな矢先、弟から「とっても美味しい苺があるけん、送っといたよ」というメールが着た。「ああそうね、すまんねえ」と返しながら、わざわざ今時、何故高い苺を?と思いながら、「とっても美味しいって?やつは酸味のあるすっぱいものは、嫌いなはず」なのにと、どこか少し納得のできない文面にやや違和感を感じていた。その現物を口にするまでは、「何か頼みごとでもあるのか?」と詮索していたのである。

  荷物を受け取ってすぐに分かった。箱に水耕栽培と書いてあったからだ。ほー、苺でも出来るんだと驚いた。それにしても、大粒なのに形が綺麗なのは、なるほど、それも水耕栽培の特徴である。おまけに、水耕栽培だと酸味も、甘味も少なく、割合さっぱりとした感じかなと勝手に想像したのである。表面もとびきり綺麗で、洗わなくてもそのままいけそうな程みずみずしさがあったからだ。さっと洗って口にしてみると、また驚いた。全くすっぱくないのにとびきり甘いではないか。ここは普通、一瞬で酸味が飛び込んでくるはずである。もっとも、それが美味しいという人も多いのだが、一方で、その酸味に対抗すようにコンデンスミルクを使うなどして、酸味と甘味のバランスの微妙な美味しさを引き出すとか、工夫をするのだが、この苺は、その酸味に対する抵抗感も必要なく、自然の甘さがぐっと引き出されてたいへん美味しい。「とよのか」は、元々酸味は少ないが、新たな品種の苺と勘違いをする程である。

 認識不足もあって、このような、通常より大き目のみずみずしい苺が、水耕栽培で出来るとは驚きであった。時代が違うと言ってしまえばそれまでだが、大昔は、水はけがよく陽当たりのよい石垣で美味しい苺が育つと習った。この苺が生産されているのは、昨年みかんを紹介した島へ行く手前の、今は呉市の下蒲刈(瀬戸内海の島)である。この場所は水耕栽培をしなくても、山の斜面を使えば陽当たり、水はけ共に優れ、それだけで美味しい苺が収穫できる場所だと思うが、生産者は、あえて水耕栽培の優位性に魅かれ、それに「美味しさと将来性」を見出したのかもしれない。だから、丹精込めて育ててあるのだろう、とっても美味しい苺に育っている。
ではこちら
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