CMを観ながら背後に流れている曲は、どこか懐かしく、聴いた事のあるメロディーだった。さて、そのジャージー・ボーイズの由来は、ニュージャージー州で生まれ育った4人の若者につけられた愛称のようだ。フランキー・ヴァリのファルセットを武器に、若者4人が「フォー・シーズンズ」というロックバンドとして成長していく姿を、事実に基づいて描いた物語。私自身、全く知識も記憶も無いので、詳しい事は分からないが、2曲は知っている。しかし、紐解いてみると1960年代の中期に何と全米ヒットチャート40に29曲がヒットしていたようだ。もちろん、あのダーティーハリーのヒットする前と言うことになる。いずれにしても、当時の流行りものは、日本へずっと後に伝搬してきたようだ。
繰り返しになるが、「フォー・シーズンズ」を全く持って知識も記憶も何も無い私でも、トッポジージョのような声と当時を再現した街並みに徐々に引き込まれてゆく。最初に身震いがするような感覚に襲われるのが、教会でパイプオルガンに合わせてA SUNDAY KIND OF LOVE を歌うところ。B♭(ビーフラット)に気をつけろという台詞も印象的で、後々修正されている。そして、あの世界的に有名になった SHERYY (シェリー)は、新たにメンバーに加わったボブ・コーディオ(タモリ倶楽部で有名な「ショート・ショーツ」を作曲した天才)が15分で完成させ、タイトルをバスの中で思いつく。そこからフォー・シーズンズのワクワクするような快進撃が始まり、フランキー・ヴァリのファルセットとボブ・コーディオの創作の才能が炸裂する。
その陰で、グループの分裂とも言うべき裏切りや家庭の崩壊、借金でグループ解散、そんな挫折しそうな中で、追い打ちをかけるようにフランキー・ヴァリが愛する娘を失う。放心状態の彼を勇気づけようとするボブ・コーディオが書いた曲がCAN'T TAKE MY EYES OFF YOU (君の瞳に恋してる)。この曲はフォー・シーズンズの代名詞と言っても良いくらいで、曲の素晴らしさの背後にそんな出来事がと、挫折の中で蘇ってくるフランキー・ヴァリの優しさと力強さ、円熟みが増した表現に納得。さらに、ビッグバンドによる伴奏によって映画は最高潮に達する。目の前で歌い終えたフランキー・ヴァリに対して、私も涙がこぼれ、つい館内である事を忘れ拍手してしまうほどだった。
また、この映画の独創的特徴は、全てが要所々かどうか解らないが、4メンバーによるドキュメンタリー調の補足、ある時はストレス解消風に解説が入るところだ。特に、曲の演奏中に説明が入るところは、大変面白いが、兄弟のような仲の良い彼らが抱える関係に、自白的な言葉が笑いを誘う。それが、人生観まで滲み出し、格好よく見えるから不思議だ。
さらに、視点を変えると、当時の実写映画と見間違えるほどの時代考証も素敵だった。最初、両親がパスタを食べている姿を観て、あれっと思いながら、後で「なるほど」そういう意図なのか!なのである。一瞬が見逃せないシーンばかりだ。当時の男、女のファッションはもとより、楽器や刑務所、バス、街並み、イエローキャブ、乗用車、放送用テレビカメラ、マイク、アルティック、アンペックスのテープレコーダを含めたスタジオ機器まで、オーディオマニアも納得する。それらは、やや押しつけがましくも、きめ細かく再現されている。思い出すに、あの時代に作られた「多くの米国ドラマに洗脳されてきた世代」の1人として、現代の迷走する米国とは違い、かつて希望に満ち溢れていた時代を思い出す。それが故に「1960年代の米国らしさ」を素直に味わうことが出来たのかもしれない。
この素晴らしい映画でも、世代を超えることは難しいようだ。わざと寂れた看板を掲げた洋食堂をみかけ、珍しく思って入ってみたら、昭和そのままの料理が出てきた。それは、おばあちゃんの古臭い料理と箸を置くか、ああ、懐かしいおばあちゃんの味だ、と「しっかり味わうか」の違いかもしれない。だから看板が年配向けと思われるのだろう。残念ながら公開されている映画館も少なかった。渋谷、新宿の館内は年配の人達でごった返していると聞いていたので、出来るだけ日程は後の方を選ぼうと思い、さらに、息苦しさをどうやって解消しようかと考えていたが、六本木ヒルズは意外にも席はスカスカで気持良く大画面の中心で楽しむことが出来た。それにしても、いつも感じるが、少し破れたようなJBLスピーカから出ているドルビーデジタルの音には「苦し紛れの魅力」はあるが、耳と体にこたえる。しかし、上の写真のサウンドトラック盤はまるで違い、1960年代風のサウンドを綺麗にまとめている。再び、ちゃんと聴いてみたい人にお勧め。低音もたっぷり入っている。
メイキング映像はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=1IcoJpSuRKg
公式ホームページはこちら
http://wwws.warnerbros.co.jp/jerseyboys/
補足:このサウンドトラック盤CDも大変凝った作りになっている。