2014/10/03

深川めし

  仕事で新幹線に乗る時には、迷わず弁当を買うことにしていた。東京駅には、色々美味しそうな新しい弁当も並んでいるが、迷ったあげく、結局「うなぎ弁当か深川めし」になってしまう。いずれも失敗のない昔からの馴染感による選択だが、うなぎ弁当は、ご飯の上に鰻のかば焼きがどーんと広がって、片隅には奈良漬とタレが入っている素朴な形。蓋が鰻をご飯に押し付け、鰻の旨味とタレがご飯に浸潤して、これがたまらない。一方、深川めしは、東京駅の定番弁当で、浅利の炊込ごはんの上に、海苔を敷いて穴子の蒲焼きと、はぜの甘露煮が載せてある。向かって左端もしくは上部には小ナスの漬物やべったら漬、さらに煮物も添えてある。今日は、その「深川めし」の話だ。

  大概の場合は、箸を右手に持ち、横(または下)から弁当箱の短い方を親指と中指で挟んで、箸との距離感を確保しながら戴く。このような幅の短い弁当箱は、車両が左右に揺れていた時代の名残りである。一口二口と口に運びながら、浅利の奥深い旨味と、添えられた穴子やはぜの甘露煮がご飯を引き立てる。ここが江戸前の由縁とも言うべき伝統の味付けで、浅利めしは醤油や昆布だしで炊き上げられ、穴子の蒲焼きは醤油や昆布、味醂、砂糖のたれを付けて焼き上げたもの、そして、はぜの甘露煮は、さらに水あめなどを加えて甘辛く仕上げてある。どんどん味が濃くなっていき、全体が醤油辛さへ傾いている。これこそ、関東風の伝統的な味付けで、醤油辛さの微妙な美味しさを楽しむのである。うーむ、白いご飯もほしい。

  醤油辛さを好む江戸っ子が魚師として肉体を酷使して活躍すれば、当然口にするものの塩分濃度は上がってしまう。江戸時代、東京湾に面した深川で、魚師が冷たいご飯に、煮立った浅利のすまし汁をぶっかけて食べたのが始まりとされているが、深川めしを醤油濃く進化させたのは、そのような地域性と職業柄が反映しているのかもしれない。さて、今日は東京みあげの定番にもなっている、その「深川めしの素」を買ってきた。江戸前としての知名度を誇り、全国観光土産品連盟の推奨品でもある。現代では、味噌仕立てのものや、鰹だし、醤油、味醂、酒、砂糖仕立てのもの、あるいは、醤油仕立ての炊き込みご飯にしたものなどが、深川界隈で楽しめるようになっているが、今日の「深川めしの素」が最も一般的である。

  箱を開けると2合用のパッケージが2袋同梱されている。大家族なら一挙に4合用として使える。パッケージの内容としては、浅利のむき身に北海道産の昆布を一緒にしたパックと、本醸造特級醤油(遺伝子組み換えでない大豆で仕込んだ)に、昆布だし、種子島産の粗糖、塩水湖水ミネラル液等をパックにした大小2つの袋が収まっている。炊きあがる時の蒸気には、如何にも美味しそうな醤油と浅利のエキスがからみあった薫りが漂い、ぐっと食欲がわいてくる。本品の特徴としては、深川の伝統を感じさせる醤油に独特の深みが感じられ、こくのある美味しさが楽しめる。年配の人にも楽しんでもらえるよう、上品で優しい口当たりはどこか懐かしく、まろやかに仕上る。誰にお土産としてお届けしても、「ほー、これが江戸前の味か」と唸るに違いない。特に、テレビの時代劇「暴れん坊将軍」を観ながら怒ったり、涙するような「じいちゃん」へのお土産にお勧めしたい。
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