昔の写真が出てきて、懐かしく感じ、心が温まることがある。また、古い駄菓子屋をみつけ、そこで幼い頃食べた菓子や「くじ」をみると、うれしくなる。昔のことや、古い記憶を呼出す行為は大脳にとてもよいらしい。これは、記憶を呼出す訓練になるからだ。記憶していても、呼出せなければ、記憶してなかったに等しい。常に、「記憶する、呼出すこと」を意識して実行することが重要といわれている。また、呼出し訓練には、何かきっかけが必要な時がある。これには、臨場的な体験が有効で、検察の現場検証もそれが根拠になっている。また、ドラマなどで、気を失うような恐怖の拷問に、時折記憶が蘇ることもあり、そういう緊張感も関連があるようだ。我々も、その訓練のために、きっかけでもある「臨場感と緊張感」を併用して、努力をする必要があるかもしれない。今回は、予期せず、そんな「強引な空間」に引き込まれてしまった。
東寺方向からJRの線路を挟んで北側にあるのが梅子路公園で、その公園の西には、梅小路蒸気機関車館があるらしい。「セカンドハウス喫茶店」を出て、ひたすら七条通りを西に進む。レジのポスターにあった「線路の円形イラスト」が頭に焼きつき、少々迷っても、「絶対に探し当てるぞ」と思い、足早に進む。JRの高架が見えると、もうすぐだ。高架の手前を「下る」。300mも進むとその看板が見えた。気持ちが高鳴るのがわかる。入口正面には、旧二条駅舎を利用した資料展示館があり、入館記念券(400円)を買って入る。そこには、歴史的な交通文化遺産が置いてあるが、これは古すぎて、あまり興味は無かった。旧二条駅舎を抜けると、奥には巨大な扇型の車庫に機関車が並んで、顔を突き出すように展示されていた。こ、こ、ここだ、ついに見つけた。ここには、日本を代表する蒸気機関車16形式18両が保存されている。その、扇型車庫に置かれた機関車の下からは線路が伸びて、円形の「転車台」に繋がっている。 これが、幼い時に遊んだ「おもちゃの転車台」の本物になるのか。実物も、ほぼ同じ構造なのだ。案外理屈どおりの簡単な仕掛けに驚いてしまった。
今、蒸気機関車の基地のほぼ中央にいて、この「ぽぉーー、ぽぉー、ぽぉーぅー」という大音量に少し緊張気味である。大脳までも揺さぶられそうな大音量は、心の奥深くまで染み込んでいく。しばらく汽笛に身を任せていると、なぜか不安と哀愁が交錯し、「今、これが現実」か、あるいは、ひょっとして「幼い時の事なのか」分からなくなってしまった。行ったり来たりとでも言うのであろうか、このような状態は、滅多に起こらないが、気持ちの悪い状態だ。円形の「転車台」に恐る恐る近づき、しゃがみこんで線路に触れてみる。この錆びた古いレールは、間違いなく現実のようだ。幻ではない。それとなく心の落ち着きを取り戻し始めたとき、「あっ、そんなこと」と、湧き上がった記憶を理解し始めていた。
15~16歳ぐらいまで、時たま蒸気機関車が短めの客車を引いて走っていたので、よく乗った。煙草と煤煙のこびりついた匂いの車内で、友達と騒いだものだ。それも懐かしい思い出だが、しかし、こんな錯乱を感じたのは、幼いときの「転車台」への執着心からか。その頃の汽車の絵本には必ず、蒸気機関車がこの円形の「転車台」に乗って回転している様子が描かれていて、その構造がいったいどうなっているのか、幼心にとても知りたかったのである。今、50年の時を過ぎて始めて実物と出会えて感無量である。
記憶は、広島駅での出来事をすでに鮮明に再現していた。・・・・「ねえさん、乗せてもらおうや」「こんなもんに乗れるんかねー、でも、これに乗せてもらわんと今日は帰れんなぁー」、「ええから、あんた先に乗せてもらいんさいや」 と姉から言われ母は、私の両脇腹を持ち、高く差し出して、おじさんに手渡し貨物車に乗せた。私は、その薄暗い車内と何故か不安で「うじうじ」し始めていた。後から従弟も乗ってきた。同時に、大きな汽笛が何度か鳴り響き、しばらくすると、列車が「ガタン」と揺れ始めた。貨物車のおじさんたちは慌てて手をさし伸べ、母と姉を引っぱり上げようとしたが、二人は動き出したことに戸惑い、体が上手く動かず、ホームに置き去りになってしまった。私も、従弟も、「ぽぉーー、ぼぉー」と鳴り続ける大きな汽笛と、「カタン、カタン、・・カタン、カタン」と揺れ始めた暗い車内で、母がいないのに恐れ大泣だった。「海田市で降ろすけーのー」と、おじさんは後ろ向きに体を乗り出し、二人に向かって叫んでいた。そんな情景が何度も何度も、思い出されたのである。・・・・・おそらく4歳ぐらい、昭和32年頃のことである。
古い記憶が蘇るときは、どことなく怖さが襲ってくる。その時の感情が先に蘇るのであろうか、京都には、「自分の過去と行き来が出来る場所がある」という。ここも、その1つだったのかもしれない。
今日は、蒸気機関車の4枚分割写真になる。白黒部分を眺めながら少しだけ過去に迷い込んでもらいたい。左からF100fd の白黒、カラー、FX500のカラー、白黒。 (初めての方は、続デジタルカメラ3の本文を参照のこと) このシリーズはこちら
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