2009/02/03

京都5

  古い建築物に、昔の人の「知恵を学び心意気を感じる」。その1つとしてここ数年脚光を浴びた、耐震構造の象徴として知られる東寺の五重塔を見に行くことにする。京都駅のバスターミナルから西方向に向かう。目標地点を例の格子で考えると、「九条大宮」である。駅前の京都郵便局の前を通り、ローソンを左へ曲がり、ひたすらますっぐ進む。歩道橋まで来たら、左へ曲がりJRの線路に向かう。線路際の橋を渡り、線路に沿ってまっすぐ歩く。ここは、梅小路通りというらしい。左には五重塔が見える。あそこだ。このまま先に進み、左に折れれば着きそうだ。予想通り、広い通り(大宮通り)に出る。車は、JR線路を越える陸橋だが、人はJR降下を抜ける。大宮通りを200m程度南下すると、そこはもう東寺東門である。ここまで、駅からおおよそ1kmである。

 東寺を守るように門前に交番と消防署があり、この寺の重要性を物語っている。慶賀門を入ると左手に堀で囲まれた宝蔵がある。「ほー」と言った感じである。ここも、重要文化財、国宝を数多く抱え、当然「世界遺産」に登録されている。それにしても、西本願寺より西にあるのに、なぜ東寺というのだろうか、いわく因縁がありそうだ、と疑問を持ちながら拝観受付に行く。拝観料を払いながら聞いてみた。坊主は、「羅城門を挟んでさらに西側に西寺と言うのがあった」と、パンフレットを出しながら丁寧に説明してくれた。ああ、羅生門、あの芥川龍之介の・・・、いえ、羅城門です。彼は身を乗り出し、パンフレットを開き、ここに書いてありますと指差してくれた。

 その部分を要約すると、「天皇が平安京に都を遷した時に羅城門の東西にそれぞれ大寺を置いた。現在の京都は御所を初めとして大部分が東へずれているが、東寺は元の場所にそのまま残っており、一級史跡にも指定されている。東寺は、左寺とも言われ、本格的に活動を開始したのは、弘法大師の造営以降・・・」とある。また、ついでに、なんだか「ありがたそうな言葉」をみつけたので、続けると、東寺は「アショーカ王依来の伝統に従い、仏法によって国の平和が護られ、その光が世界の隅々までいきわたるように、そして、それぞれの思想が、共に侵されず共存してゆく原理を見出し伝え、共々に力をあわせ実現されていくように、との弘法大師の願いが込められている」 とある。

 弘法大師は、なんとも規模のでかい崇高なる理念をお持ちだったようだ。ここにある金色に輝く数多くの仏像だけが「遺産」ではない。それは、我々1人1人に分け与えられる、この「願い」であり、その「願いが込められた仏像」を通して、それを都度考え、行動し、継承してゆくことなのだ。・・・と、いつもと違い、妙に素直になり、罰が当たるかも知れないが、「こういう、おっさん好きだなぁ」と思い五重塔に向かう。

 五重塔は高さ55m。現在の建物は1644年に再建されたもの。最初は883年竣工、1055年、1270年、1567年、1635年と4度も焼亡されている。現在は5代目。これが、門の前に消防署がある背景なのか。この塔は、各層ごとに、軸部、組み物、軒などを組み合わせ、さらに、それを最上部まで繰り返す、積み上げ構造になっている。各木材も切り組のみで、接合部が結合されない「柔ら構造」というらしい。大地が揺れる地震には、この接合部がずれながら上層へ伝わってゆくのである。上下の層は、互いに逆の方向に動き、振動を吸収する。この構造の縮小版は、その後、様々な社寺仏閣にも適用されている。また、ここの最大の特徴は、各層と独立した中心部に、最上層部まで貫かれた「心柱」があり、これが、各層と連携し正立する復元力となって機能することである。この構造によって、破壊から塔身を守ってきたのである。しかし、木材の自然乾燥による伸縮で、各層は自由に伸縮するが、独立した心柱だけは、そうならず、後に50cm程度堀下げられたそうだ。ただ、最上層まで貫く心柱を囲む空間は、構造からして火災時には煙突として機能し、瞬く間に焼亡してしまったのではないだろうか。歴史が物語っているとおり、実物を眺めることで、火災には極めて弱いことが理解できた。それにしても、凄まじい数の複雑に組み上げられた木材と、それを4度も復元できる知恵に驚くばかりだが、一本筋の通った「心柱」と、柔軟に対応する各層の連携に、何だか宮大工の「夢を実現する心意気」を垣間見るようだ。隣にいる外国人観光客には、どのように写ったのだろうか。こいつら、何でも「ワンダフル」で済ませられるのか。

 今日は、白黒の「明暗」のあえて苦手な、暗部のガンマ特性が顕著に現れる画像比較をした。暗闇の中で「素晴らしい芸術作品」を見た後なので、こちらは、ばっさり切捨て御免。このシリーズはこちら。 (初めての方は、続デジタルカメラ3の本文を参照のこと)
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=0FF68288DD53524E&resid=FF68288DD53524E%21792&app=WordPdf