いまどき、儀礼的に頂戴しても、食べるのに苦心する物がある。確かに日本の伝統的な食べ物には、低カロリーなものが多いわけで、低GI修行中の身には好都合なのだが、こと「そうめん」だけは、扱いにくいと思われる。幼い頃は父、母、祖母と一緒に食べた記憶があるが、すでに自分の気持ちの中では、昭和の遠い思い出になってしまっていた。しかし、そんなものを頂戴したらどうすればよいのであろうか。珍しく考え込んでしまったのである。包装も手の込んだもので、恭しく戴くことを示唆するように、薫りの良い木枠に入っている。古式豊かな食べ方でないと、どうにも許されそうに無い感じもあり、このあたりが、いかにも日本式というのであろうか、外堀を埋められたようで、形から入るというか、まるっきり逃げ道の無い方向感をかもし出してくる。
とりあえず、木枠を外し中身を開いてみると、予想もしなかった紙切れが入っていた。料理法が載っているのである。そうか、誰でも同じ様に困ると思っているに違いない。製造者でさえも、この熟練された技術を活かす方法を模索しているようだ。そこを鑑みて、用意されているのであろう。このあたりにも、日本人の優柔不断というか妥協的な性質が覗いている。これで、食べ方まで決められていたとしたら、それはもう、お届け物として次は無い商品となってしまうからだ。
開いてみると、あまり綺麗ではない調理写真と材料の記述があり、趣向別に構成されている。和風では「すき焼きそうめん」、「にゅうめん」、「冷やしそうめん」このような食べ方が、標準なのであろうか。洋風では「きのこ炒めそうめん」、「なすのトマトソース和え」、これらはパスタに近い感じだ。中華風もある「カニあんかけそうめん」、「白菜の中華風サラダ」これなら御飯の方がいいのではないか。駄目押しに、エスニック風というものまであり、「タイ風焼きめん」、「バンバンジー風そうめん」、ここまでくると、もう調理写真を見ただけでお腹いっぱいになってしまう。
それにしても、素麺が届いたのも何かの「縁」である。送り主はきっと喜んでもらえると思っている筈だ。その意をくんで一生懸命調理して食べようと思う。そして、堪能した証として、多少なりとも美味しそうに見える写真を残しておきたい。木箱の中には、「三輪の神杉」という素麺12束(1束50g)、「杉の雫」というつゆ(2倍希釈)が同梱されていた。とりあえず、1束を普通の冷やしそうめんにしてみるが、つゆの力でやっと食べたという感じである。次の1束は、暖かい「にゅうめん」にしてみた。どちらかといえば、こちらの方が自分には適している気がするので、独自の麺つゆを作って食べることにする。
つゆは、同梱されているものを希釈して使用しても良いが、やはり、ここは1つこだわりを活かしたい。鰹節の削り節と、椎茸をアルカリイオン水を使ってだし汁を作り、帆立だしの素、日本酒、本醸造の醤油、を加えて煮沸させる。アルコールが飛んだところで火を止め、椀に移しておく。次に素麺を茹でる。素麺は、お湯の中で自ら動き回るので調節は火力だけである。1分で取り出し、冷たい流水で洗う。水をよく切ってから椀に移す。上に乗せる物としては、玉子焼、きぬさやえんどう(あらかじめだし汁で煮ておく)、かまぼこ、椎茸の甘辛く煮たもの、彩の為に寿司ネタ用の海老など、好きなものを用意したいが、ちゃんとした下味をつけておく必要があり、それぞれ別々に味付けしておくなんて「そうめん」は結局和のぜいたく品である。 まあ、美味しく戴くには手間と時間は仕方ない。上に乗せる物は、できるだけ種類を多くして飽きが来ない方が良い。
出来上がった調理例を写真に撮ってみた。椀の中の僅かな範囲をシャープに出して、他をぼかしてみた。鰹節の削り節から出た旨味がたっぷりの上品な麺つゆは、素麺を1ランク高級品にしていると思う。どうかな、美味そうに見えるかな? おっと、甘辛く煮た椎茸を入れるのを忘れてしまった。
ではこちら
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