人は、時たま微量の劇薬を投与されることで、免疫力が高まる事があるらしい。それを目的にした療法があるとも聞いたことがある。毎日が毒気の連発ともいえる現代人には慢性的な話だが、美しく心地よい曲ばかりでは、何か物足りないと感じることも少なくない。時々、ちょっと刺激があって、元気や勇気が沸いて来る曲も聴きたい事がある。ごくごくまれに毒気も必要と言うことなのだろうか。
世の中には、1発屋と呼ばれる人はたくさんいる。これは、1つしか芸が無いというときにも使われるが、たった1つでも「誰よりも群を抜いて優れている」、あるいは、それを創作するのに「一生かかってしまった」時にも使われる。逆に、同じ様な曲を小出しにして独自の世界を切り開く人もいる。それらは、どの作品を聴いても同じに聴こえるが、1つ1つの完成度は水準以上で、少しづつ聴きなれて、その世界に徐々に引き込まれるという作風になっている。レコードやCDの売上げを考えると後者の方が良いに違いない。しかし、いつまでも人の心に残る曲は、また別なのかもしれない。
そんな1発屋が毒気にも似た刺激的な作風で作った曲がある。古い曲で恐縮だけど1回聞くと、ちょっと元気や勇気が沸いてくる。元々、時計のCMのために作られたもので、当時盛んにTVで流されヒットに繋がった。ファンの人には申し訳ないが、歌詞の中には訳の分からない、とてつもない巨大な破壊力が綴られており、それが、聴き手には壊滅的で、整然とした秩序を嫌うエネルギーにも似た刺激で、そんな破壊に遭遇しても、人を愛することの喜びや、短く楽しんで生きる心得を婉曲に伝えていると思われる。その歌詞のとてつもない巨大な破壊力とは、「空はひび割れ、太陽は燃え尽き、海は枯れ果てて、月は砕け散っても」というフレーズである。それが、「ヒーローになる時、それは今」にどうやって導かれるのかやや不明瞭だが、恐らく彼女にとって自分がヒーローであると自慢しているようで、対比が極端で、理屈ぬきに面白いし、曲の流れにパンチがあり、勇ましく格好も良い。この曲を、野球やサッカーの関連CMに歌詞を変えれば、もっと不滅の名作になるかもしれない。しかし、その意気込みはロック調だったが、作品は純粋な歌謡曲である。
そして、この1発屋は、もう1発名作を書き起こしている。それは「安奈」に見る事が出来る。やや古典的な美しいメロディーに、男のロマンが渾然一体となった歌詞が心を揺さぶる。ただ、歌詞の中は、安奈のご機嫌を伺うフレーズが多く、内向的若者が心を揺らしている様子と、ちょっと下手な歌い方で、男の悲しい純真さを表現しているが、当時としては、これも対極的手法なのである。さらに、メールは「長々と書くのではなく一言で伝えよう」という教訓も忘れていない。同じ1発屋が作ったとは思えない、フォーク調の単純なコード進行なのに、やはり歌謡曲に仕上げている。この2曲は、まさに1発屋の気まぐれな、飽きやすい1発屋ならではの想いが「才能の非凡さとして垣間見れるところ」が、傑作と言われる由縁なのかもしれない。
当時は、高い声で語りかける曲や、悲観的ストーリーと情景描写で表現されるような、より身近にある「恋のリアリティー」を歌い上げた曲が多い中で、いやいや、南こうせつさんと比較するつもりは無いが、そんな主流から外れて異色を放ち、何かにつけて内容よりも「格好良さと美学」を追求した1発屋のおっさんである。偉そうに「おっさん」と書いているが、私と同年の生まれで、当時は、このような曲が作れる「才能溢れる若者」だったのである。そのおっさんが、「大人のCDコーナー」に座ってこっちを見ているので、「おおー甲斐さん」と言いながら、懐かしさも手伝って、きっとまた気まぐれな個性を使って「大人のCD」を作ってくれているに違いないと期待しながら、手に取ってしまったのである。
手に取ると、それでも失敗したらどうしようと言う気持ちと、また違う欲張りな気持ちがこみ上げてきて、別のコーナーにあったKai Bandのシングルス2枚組み38曲入りも購入してきた。聴きたい曲は、上の2曲しかないのが寂しい。ということで今日は、甲斐特集だ。どうだ、どうだ、こんなコアな話題についてこれるか。
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