田舎のお正月は、近くの親戚や知り合いが顔を出す。もっとも、楽しみに待ちこがれているわけでもないが、来ればそれなりに何かもてなしをしなければならない。年末から、そのための準備に余念がない。お酒さえあれば良いという人達には、「加茂鶴」を出せばよいので簡単だが、料理と言うのは案外難しい。種類をたくさん出してもうんざりされるだけだし、広島では、牡蠣料理のアラカルトを出しても、大して珍しがられる事もない。やはり、独創性が要求されているわけである。そこで、今年は手軽な完全パッケージの食材を加えてみようと考えたのである。たくさんは食べられないという人にもぴったりで、すぐに帰りたがる客人にもお持ち帰り可能である。やはり、少しだけ珍しい物が出ると、目で楽しんで、箸でつついてみると、気持ちも楽になって、屈託のない話が展開されると思うのである。気に入ってもらえば、2個でも3個でも食べてもらえば良い。
かつて母が正月に腕を振るっていた頃は、隠しだまのような料理まで作って用意していたので、その頃が懐かしく思い出されるが、今はその様な習慣もなくなり、重箱におせち料理を入れることすら面倒で、何かにつけて購入したまま保存してあることもある。去年の正月は、「鰻のおこわ」を紹介したが、今年は、「紅ずわい蟹のおこわ」にしよう。ずわい蟹は、山陰では「松葉かに」、北陸では「越前がに」とブランド化されているが、どちらも同じ蟹を指す。瀬戸内近郊の旅行代理店では、冬の味覚として鳥取へ「松葉かに」を食べに行くツアーが人気で、この時期の旅といえば温泉と蟹を結びつけたものが多い。もっとも、山陰、北陸のみならず日本海側の温泉地では、この「ずわい蟹の需要」によって旅館や民宿も賑わいを見せるようだ。
それだけではない、ずわい蟹の人気は全国的にも高く、年末になるとテレビショッピング等で3kg=9,800円とか、小安く販売されている。本来の山陰、北陸の「ブランド物」、つまり松葉かにや越前かには、「こおらの直径」が12cm~14cm程度で一杯30,000円~50,000円である。これが蟹は高いと言うイメージを作り上げてきたが、これらは五体満足で、美しい姿や形を楽しむ要素が高いからである。つまり、逆に「パーツ単体には価値がない」といえる。したがって、お腹いっぱい蟹を食べたい人には、足だけとか、食べやすいところが、安くてたくさんあると嬉しいに違いないが、匂いも強いので、別の意味で保存に困る食材でもある。ほどほどに取り寄せた方が良い。
と言っても、ボイル後の冷凍物を送ってもらうよりも、その場の茹で上がりを戴くのが美味しい。だから蟹が採れる場所まで出かけて、温泉でゆったりして、部屋でゴロゴロ、食っては寝て、起きたら温泉する、というのも最高なのだが、色々とその条件や距離感、おまけに時間の制約等を考えると、かなり前もって準備が必要なので、億劫な話である。そんな、食欲中枢と大脳の駆け引きによる紆余曲折があったとしても1つの結論として、蟹の加工食品を用意してお茶を濁すのも安上がりでよいと思ったのである。しかも、この程度の価格だと、現地に行った気になれば、冷凍庫いっぱい買っておいても、お釣りが来る。また、2ヶ月保存も効くので食べ飽きることもない。ま、残念には違いないが、こうやって、こたつに入って「紅ずわい蟹のおこわ」を戴きながら、雪のちらつく日本海の荒々しい風景を思い浮かべて、時折、身震いしながら食べるのでよいと思うのであった。うーむ。
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