ここんとこ、何かしっくり来ない日々が続き、やや趣味のような仕事にも飽きて、一寸した刺激が欲しいと思っていたのであったが、連休という生暖かさも手伝って、ふらーっと府中まで映画を観に出かけた。もちろん、特別映画が好きなわけでもないが、手っ取り早く感動するには最適である。とは言うものの、家の「42インチのプラズマテレビ」で、時期遅れの日本語吹き替え映画なんぞを見ても、やはり字幕スーパーのないのが、やや物足りなさに繋がるのである。これは、一種の「目と耳と大脳の連携動作」が暇をしてしまうからである。平坦で単純な言葉、視界に収まる画像、音のダイナミックレンジ不足などによって、テレビでは、映画が極端につまらないものになってしまうのである。
やはり、一生懸命言葉を追いかけながら、大脳で状況を把握できなければ、時たま字幕に目をやり、といった少々苦労をしてでも、発する言葉のニュアンスを聴き取ることも、映画の面白さだったのではないだろうか。・・・と考えてはいても、さほど説得力はないなと思っていた。しかし、今回の映画「英国王のスピーチ」をみて、やはり、自らその考えに自信を得たのである。こりゃあ、日本語吹き替えでは、全く意味の無い映像になりかねないし、演技者の苦労も伝わらないと思ったのである。
映画の内容は、英国で最も内気な国王と言われたジョージ6世(現エリザベス女王の父)が、不本意ながら兄の後を継ぎ、国王としての職務を果さなければならなくなった。しかし、彼には、吃音(きつおん)があり、スピーチに苦しめられる。もっとも、吃音が無くても、ある日から国民に向かって国王として上手にスピーチするのは大変なことだと思うが・・・。そこで、彼は数々の言語聴覚士の治療を受けてみたが、改善されることは無かった。そんな折、見かねた妻のエリザベスは、自らスピーチ矯正の専門家のライオネルの診療所に訪れ、治療を依頼する。ライオネルは、彼の吃音の本質的な原因を探りながら、様々な手を使い、独自の治療法を試みる。そんな折、時代はいよいよ、第二次世界大戦へ突入する。ナチスドイツと戦う国民に対して、彼は国王として国民の心を1つにすべく、勇気を振り絞ってスピーチに望むが、国王の言葉を待ち望んでいた国民の反応は如何に・・・・と言ったところ。詳細はこちら
http://kingsspeech.gaga.ne.jp/
ストーリーとしては、凄くシンプルで、まぎれも無く歴史上の事実。頭の中ではどのように考えても、シナリオは読めるし、感動はこの程度と言う「見積り」さえ作っていた。そして、そんなに意表を突かれて感動する筈はないと漠然と思っていたのである。しかし、改めて目の前の映像と音作りに、じわっと腰が抜けそうな迫力を感じることになる。このジョージ6世役のコリン・ファースは、「英語における吃音状態」を見事に熱演し、ライオネル役のジェフリー・ラッシュは、歴史的事実に基づいたオーストラリア人ならではの吃音治療のきめ細かさを再現した。イギリス×オーストラリア合作による118分による大作になっているのである。我々は、じわ、じわっと何処からとも無く伝わってくる一種独特の緊張感と恐怖心にも似た精神的重圧を、少しづつ国王と共有することになる。そしてライオネルによって、知らず知らずに精神を解きほぐされながら、何処からとも無く、我々にも感動が押寄せてくるといった、気持ちのよい作品であった。それも、日本語吹き替えでは、到底伝えられない微妙な感動だったのである。バックに流れるクラシック音楽と、その場の音場再現はドルビーSR、ドルビーデジタルで聴き応えあり。一言で言えば、とっても感動的で素晴らしい作品であった。
そうやって、オリジナルを映画館で観る面白さを、しみじみと味わったわけである。そしてさらに、同じ様な刺激を求めてもう1つぐらい観たいと思ったのである。その、もう1つが今日のタイトルにもなっている映画祭の一環なのである。毎朝10時から上映する特別企画で、名作中の名作が50作品順番に1年間上映される。この連休は「風と共に去りぬ」だったので、昔を懐かしがりながら観ることにしたのである。勿論LDも、VHSも持ってはいるが、やはり映画館における巨大スクリーンと力強いJBLサウンドの醍醐味を感じたかったのである。
最初に「風と共に去りぬ」を観たのは中学校時代で、ビビアンリーが美しかったので、3回も映画館に通った。当時は、軟弱でけつの穴の小さなアシュレーが、南北戦争で何故戦死しなかったのが不思議なくらいで、原作の意図は全くもって良く分からなかったと思うが、今回は、全体の流れも、それぞれの人間性や愛情表現の微妙な駆け引きまで、よく納得できたと思う。少し大人になったのかもしれない。連休のせいか、殆ど年配の人達で席は埋めつくされていたが、本来は、学生さんや若者にこそ見に来て欲しい企画なのかもしれない。それにしても、余談だが、今回はあの美しいビビアンリーが、サッカーのドイツ代表のフォワード「クローゼ」に似てると思えて仕方なかった。うーむ、昔はもっと綺麗だったのに。
上映作品のリストを眺めてみると、誰でも昔見たことがあるものばかりで、特別な新鮮さは無いかもしれないが、映像がオリジナルからのニュープリント・フイルムと謳うぐらいで綺麗だし、音声もテレビでは絶対に得られない力強い重低音で盛り上げる。しかし、そういう物理的な優位性だけではなく、恐らく、それら名作50作品の最大の魅力は、誰しも感動する場面とそのスクリーンのイメージ・サイズが決まっていて、その場面がくると、あるいはその音楽が流れると、必ず涙し、その後「すっきり出来る」ことにあるといえそうだ。
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http://asa10.eiga.com/
補足:吃音→言葉を発する時に、言葉が連続して出てきたり、一時的に無音状態が続いたり、考えている事が円滑に言葉として組み立てられない一種の病気。あせりや緊張に伴いその症状が顕著になる。日本では、これらを包括して「どもり」というが、一種の言語障害で、その障害となる要因を取り除いて正常化するのはなかなか難しいとされるが、時間を掛けて克服する努力が必要である。