若い人から、オーディオってなんですか?って問われるかもしれないが、昔は、程度の差はあったにせよ、これを趣味にしていた人も少なくなかった。今日は、以前から続いている我等テープ党の話題の中から、例のナカミチTT1000の弟分であるTT700 を紹介する。すでに、滅多に使わなくなったカセットデッキも、改めて写真に撮ってみると案外魅力的に見えるものだ。筺体に触れるとアルミのエッジで指が傷つけられそうな仕上げのまま、相変わらず強い個性を漂わせている。1978年頃、当時、生録をして楽しめるスーパー・カセットデッキは2~3台しかなかったが、これは、その1台である。しかし、その優れた性能もさることながら、唯一、ヨーロッパ調の個性的なデザインが多くのファンを魅了してきた。
少し操作の説明をすると、まず、四角い蓋を開き、カセットを挿入する。手前にある6本の縦筋が操作部である。昔のエレベーターのボタンと同じで、触れるだけでよい。録音する時は、以前からお話をしている通り、このデッキの特徴でもある独立型3ヘッドにより、事前に録音ヘッドのアジマスを再生ヘッドに合わせる操作が必要になる。そのために、400Hzのテストトーンを記録再生し赤い2つのインジケータが同じように光る位置を探しだす。この調整機構をアライメント・ビーコンと言い、PDF写真の中では蓋が開いたところに存在する。我々は、この操作がやはり面倒なので、同じ銘柄のテープをたくさんストックしておき、いくつかサンプルを抽出してアライメント調整をして、それで済ませてきた。
調整を終えると、巻戻して400Hzのテストトーンを消去しておく。それから録音を始めるが、操作ボタンの右側にあるのが、左右チャネルの音量を示すピークレベルメータである。おっと、昔の人間には普通の事でも、デジタルに慣れた若者には、理解に苦しむかもしれないので、少し説明を加える。本機は3ヘッドなので、録音前の音質と再生時の音質を source と tape のポジションを切替えることで比較できる。まず、source のポジションだと、音声が入力されてメーターの針が振れる。一般的には、この針の振れが小さいと録音する音がノイズに埋もれてしまうし、赤い領域まで大きく振らせると音がひずんでしまう。source と tape のポジションを切替えて聴き比べるとよくわかるが、大方においては、針はPDF写真のように、中央の0目盛りのあたりを行き来するぐらいにボリュームを調節すると良い。
さて、年代も経過している本機だが、今でも現役で活躍している。最新のCDをコピーしても申し分ないが、同社のより新しいデッキと比較すると少し物足りなさもある。しかし、一方で、当時のミュージックテープの音質を髣髴とさせる艶やかな部分もあるので、廃棄できないのである。デッキの音質の評価は、自己録再だけにとどまらない。ミュージックカセットをどのように再生するかも重要なファクタなのである。ナカミチのデッキに共通する優位性として、ミュージックカセットの再生において、DOLBY の効果が音質を劣化させないところである。このことは、当時のレコード会社のリファレンスデッキとして使われていたことからも裏付けられる。古いミュージックカセットの音質も十二分に引き出すことが出来る。まさに、ミュージックカセットとデッキの相性が残っているようだ。そこに、古くてもこのデッキの存在価値がある。PDF写真は、細部を改良された後期モデル700Ⅱである。ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21987&app=WordPdf
補足1:デザイン→天才とも神様とも呼ばれた「レイモンド・ローウィ」のデザイン。
補足2:触れるだけ→フェザータッチともいう。この操作フィーリングは、世界最高といわれている。
補足3:B TYPE DOLBY SYSTEM →DOLBY SYSTEMには、A TYPE と B TYPEがあった。A TYPEは、レコーディング・スタジオや制作用として普及し、その簡易ローコスト版が家庭用カセットデッキ等に搭載されたB TYPE。要は、入力された楽音の高い周波数成分のダイナミックレンジを圧縮して録音し、再生するとき伸長するというもの。どのようなデッキでも、上手くいくわけではない。