2011/07/08

井村屋の和匠菓選

 いつからか、夏に限らず年中アイスクリームが食べられるようになって、気がつくとそれは、ファーストフードの仲間入りをしていた。ただ、店舗販売では独自に試行錯誤をして、四季を通して多少なりともバリエーションというか、季節感を出した商品展開をしてほしいと思っているのは、私だけか。「売れている」から「まだ大丈夫」と、半ば溶け始めて、再び凍ったような商品企画を続けていたら、いつしか客足が減ってしまった、なんて事のないように、常に新しい感覚で先取りしてほしいし、新たな情報発信基地になってほしいと思うのである。

 つい先月も、新宿で京王線に乗る前に、ハーゲンダッツを覘いた。そう、あの角のお店である。一通り見まわして、相変わらず食べつくした定番ばかりだったので、「つまらんな・・・」と思いながら、だからと言って、しらっとお店を出てしまっては「変なオヤジ」と思われるだけだと思い、そこで、既にディスコンになって15年ぐらい経過した銘柄を引き合いに出して、「ブランデーチェリー」は無いの?と改めて聞いてみた。すると、首をかしげながら「そんなの・・・・」と言った反応だったが、横からフレームインしてきたお姉さんが、「来月から期間限定のチェリーが出ますよ」と教えてくれた。「じゃ、また来ますわ」と、気分良くお店を出たのだが、帰り際、かつて同僚を連れてきて、「どうだ、どうだ、ブランデーチェリーって美味いだろ!」などと、御馳走した頃の事を思い出し、妙に懐かしく思えた。

 いつでも食べられると、希少価値の印象はないが、いざ、無くなってみると、今となっては 「う~っ、もっと食べときゃよかった」 と後悔するものである。やはり、若いうちから好き嫌いなく、「世の中にある美味しい」を実感しておけばよかったと、今になって想うのである。まあ、美味しいものは、思い出になるのである。思い出と言うのは、「時間的、あるいは空間的な隔たりや、薄れた記憶によって美化される」ところがよい。美化される=うれしい、楽しい、という関連から、心が存分に解放されるわけである。・・・・と、いつものようにアイスクリームにまで屁理屈をつけているわけだが、そうやって、少しづつ悔しい想いを残していく品物が続いている。

  さて、その、「期間限定のチェリー」を食べてはみたが、「あれ、これどこかで・・・」という、他社にもありそうな感じであった。これって、OEM商品かあっ!あの、昔のハーゲンダッツ独特の「引きづり込まれるような、くどい甘さの中にある美味しさ」は感じられなかった。 最近は、どちらかと言えば、甘さもカロリーも、軽い感じになってきて、食べ終わっても、一体、今何を食べたっけ?と思うぐらい、味に個性が残らなくなってきた。まあ、色々と、ファンの心理は多種多様で、低カロリーへの変化をよしとする風潮と、昔ながらの個性的な美味しさを求める気質とが相互に入り乱れ、爺じ、婆ばと若者の両者を顧客に持つ場合は、とかく品種の増える方向のマーケティングになりかねないのである。

 少々余計な前置きが長引いたが、今日は、小豆一筋と言ってもよいくらい強いこだわりをもつ日本の老舗「井村屋」からの出題である。決してスタッフが顧客リストを広げて検討しているわけでもないのに、今、我々が何を求めて生きているか、を高所からうかがい知るような商品企画をする。戦後すぐに創設され、50年くらい前には、既に一大旋風を巻き起こし、小豆と言えば「井村屋」、井村屋と言えば「ジュースの素」と言われるぐらい、当時から全国ヘ展開する強力な甘味老舗メーカーである。実は、いつでも、この井村屋の商品を見るたびに、幼いころ「食べたジュースの素」を思い出すし、TVCMの旋律まで呼び起されるのである。今日の2種のアイスは、そんな世代が喜ぶ小豆のアイスクリームで、口に運ぶと、懐かしくて、優しい「こしあん」の中に、甘納豆の強めの甘さが広がり、何とも上品な新しい風味なのである。これこれ!
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21980&app=WordPdf

補足1:「つまらんな・・・」→ そう言われること自体、それはもう終わりかけている証拠である。
補足2:戦後すぐに創設→ 昭和22年より創業。
補足3:食べたジュースの素→飲むの間違いではなく、粉末のジュースの素をそのまま口に頬張って食べる様子のこと。
補足4:TVCM 「ホホイのホイでもう一杯、井村屋のジュースの素ですもう一杯」だったかな。