またまた、今から30年くらい前の話になるけど、オーディオマニアの課題の1つが低音再生であった。低音といっても、ベースやスネアドラムの音が空気感として伝わればよいというレベルから、ピアノのファンダメンタルや、大地を揺さぶるようなパイプオルガンの重低音まで欲しいと言った高度な要求まで様々で、周波数的には20Hz~80Hz と大したことはなさそうだが、音楽で考えると何とこれは2オクターブということになるのである。一般的に日本のリスニングルームは8~10畳程度しかないので、波長という観点でも1波長が室内に収まらない空間周波数である。それでは物理的に無理だと諦めて素直になればよいものを、誰しも飽くなき挑戦を繰り返してきたのである。
それが1980年頃に、オンキョーのスーパーウーファLS-1が開発されてからは、やや半信半疑ながらも、希望をもって低音再生に挑むことになる。このLS-1の仕組みは、前面にある重たい振動板と、空気を介して、裏側でそれを駆動するユニットの3要素で構成されている。駆動ユニットが動けば空気を震わせ、次に前面の重たい振動版を揺さぶる。その重たい振動版と空気が最も動きやすくなるポイントを共振周波数という。その周波数を20Hzに調整するわけである。この仕掛は重さのみのパッシブラジエータ型あるいは、等価質量の空気を使うバスレフ型の変形である。振動板を軽くすれば、逆にキャビネットに大量の空気を必要とする。ただ、重たい振動版を少量の空気と共振させるため、理屈では、同じ周波数を再生する巨大な完全密閉型(600リットルのJIS箱)のスピーカに比べて過渡特性は劣る。
それでも無いより、有った方がよい低音再生では、重低音へ再生範囲を広げれば広げるほど加速度的にコストがかかる。そこで、実際はどこまであればよいのか、あるいは、自分の聞く音楽はどこまで必要なのか試算をして、適当な仕組みで妥協することになる。私も、かつて170リットルの箱に三菱電機のプロフェッショナルモニタ4S-4002Pの40cm径パッシブラジエータとJBL30cmウーファ2203Aを組合せて使用していた。それも、古い当時の写真を見て思い出した程度で、期間は短かったと推察される。それは、スーパーウーファとして設計しても、単純に18dB/octで高域をカットし、さらにフルレンジ側の低域をカットして、レベルを調整しただけでは、「特性的」にも「音質的」にも繋がりが上手くいかないからである。
その後、苦い経験を抜本的に解消するため、日本楽器製造のSW-160のスーパーウーファと、チャネルデバイダEC-2を組合せて、異なる周波数2段で高域をフィルタリングするようにした。EC-2はクロスオーバー周波数50Hz以上を18dB/oct でカットし、SW-160では、さらに100Hz以上を18dB/oct でカットしている。これによって、スーパーウーファからかすかに人の声が聞こえることもなくなったのである。そうやって、狭い部屋では積極的にフィルタを2段組合せないと解消されないこともある。高い周波数がスーパーウーファから再生されると、全体の音像がぼけるし、中低音の質の低下を招く。確かに、4ウエイで、なおかつフィルタの2段構えは、伝達関数的には恐ろしく好ましくないので、二の足を踏むが、少なくとも、聴感上の課題はほぼ解決できると思う。
この2オクターブの低音再生に注力して聴感上も上手くいくと、様々な楽しみが生まれる。全てのディスクを聴きなおしてみたい衝動に駆られるし、勿論、その期待に応えてくれる「凄まじい低音の録音」も発見できる。あの、ビートルズのアナログ録音にも部屋を揺さぶるような超低音が入っていたり、デッカのクラシック・レコードにも力強い重低音が入っていたりする。ま、音楽は中低音に始まり、超低音の終わるといってよい。今日は、買ってくればすぐにできる「低音の勧め」と言ったところかな。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211025&app=WordPdf
補足:結局この日本楽器製造のチャネルデバイダEC-2は、試作サンプル品で、発売に至らなかった。それは、EC-2を使う超大型スピーカ・システム(すべてのユニットにベリリウム蒸着の平面振動板を使った4ウェイ)も同じ運命をたどったからである。この結EC-2は、日本楽器製造が試作で何台か作った内の1台が我が家に残ったものである。
余計な独り言:この超大型スピーカを雑誌の表紙用で、Kさんは誰かに写真を撮らせた(浜松まで出向いて)ようで、そのポジフィルムを見た記憶がある。ただ、残念ながらそれも同じ理由で表紙として採用されなかった。