先日、日本橋屋というお店の「天下鯛へい」という和菓子を紹介した。一寸個性的な顔をした「鯛焼き風の和菓子」で、割と美味しかった。戴き物という事もあって、その製造元の背景とか歴史についての詳細は全く不明であった。もっとも、とびきり驚くような衝撃や影響を受けたわけでもなく、ただただ私が知らなかっただけの事なのだが、さりとて、どこか少しだけ「魅かれる気分」が残っていて、もう少し、日本橋屋というお店を探ってみたいと思うようになったのである。ちょうど「鯛飯の椀の中で鯛の身を探すような気分」とでも例えられようか。ということで、日本橋屋の他のお菓子も戴いてみたくなったのである。
お店のガラスの展示棚で目を引いたのは、この栗入巴衣「木場の角乗り」である。よくある栗の入った巴衣(=パイ)なのだが、なぜ、「木場の角乗り」と名付けられたのであろうか、調べてみると、それ自体は東京都指定無形民俗文化財で、「江戸時代の筏師が筏を組み上げるために、水辺に浮かんだ木材に乗り、鳶口を操って筏を組み上げるための高度な技術から派生したもの。それに由来して数々の技術が積み重なり、芸能文化として民俗文化財にまで発達したもの」という。栗入パイに、そのような大げさな名前を付けるとは、関係者からは「不届き千万」と言われても仕方ないが、それなりに、創造された栗入りパイ1本に貫かれた、日本橋屋の骨太とも言える主張や発想の豊かさを感じるわけである。うーむ、ほんまか?
さて、この商品の包装状態というか、包装構造だが、「箱自体が巧妙に考察された組立て型の包装紙で作られている。外装半分には角材を感じさせる木目の印刷が覆っている」という凝った箱になっている。その箱を開けると中には、白いビニールに包まれた15cm程度の1本のパイがどーんと横たわっていた。この包装状態で、15日程度の賞味期限を確保している。この「角材を感じさせる印刷の包装箱」を見て、どれだけの人がセンスの良さを感じられるかどうかは不明だが、強い主張を感じることは間違いない。そして、私と同じように、「木場の角乗り」とは何か、調べてみたくなるのである。いわば、東京都指定無形民俗文化財の広告宣伝のための和菓子といえるかもしれないのである。
全体として小ぶりの包装のお菓子だが、丁寧に手間暇かけて作られているようで1本850円である。もっとも、売れ残りは捨てるしかないようだ。中味を開けると1本のパイ状になっているので、口にするには、切り分ける必要がある。それだから、良く切れる包丁を用意しないと中の栗の断面まで美しくならない。その、綺麗に裁断された断面を見つめながら口に運ぶと、パイの外側の生地の薫りと少々田舎風の小倉餡、そして香ばしい栗が絶妙に調和した美味しさに繋がるわけである。小倉も栗も品質の高いものが使われているのがすぐに分かる。・・・・が、パイには油分があるため、小倉餡との相性には、従来になかった対比する独特な美味しさを感じるのだが、その油分が逆に製造日より1週間程度で風味が低下することも念頭に置いておきたい。この様なパイ生地のお菓子には、賞味期限の内側に風味期限がつきまとうようである。
ではこちら
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