2012/02/28
思い出横丁
新宿西口のユニクロを右に曲がると時空を超える場所があるという。その摩訶不思議で都市伝説のような空間は、すぐに見つけられる。そして、夕方になると、そこにある穴倉に吸い寄せられるように、会社帰りの初老達が集まってくるのである。その穴倉の中では、40年前の自分と遭遇できる世界が広がっているという。初老達は、「しばし歳を忘れ、若かりし日に想いを寄せる」のだという。知り合いの部長さんも入ったまま、いつまでも出てこなかったという伝説が、まことしやかに残っている。
京王線を降りて、西武新宿駅に向かう途中は、小田急デパートのエスカレータで地上1階に上がる。右に向かうと、そこからはガード下までずっと下り坂になっている。その道なりには、チケットショップやブランド商品のあるお店、ケンタッキー、CoCo一番館、カツや丼物のお店等が並ぶ。何処にでもありそうな商店街の一角である。途中、ふと奥に目をやると、朝6時45分だというのに、何やら数人そわそわ並んで立っている。一体そこにはどんなお店があるのだろうか。
帰りにも同じ道を通る。今度は上り坂である。今日こそ内部を探険しようと思っていても、道なりに人について行くと、気がつくと既に通り過ぎていたりする。その日は、意識してユニクロの手前を左に折れて立ち止り、しばし覘いてみることにした。入口の緑の看板は、やはり不思議な世界の入口であるかのような雰囲気を醸し出し、お酒を呑めない私の入場を拒んでいるように思えたのである。しばらく立ちすくんだ後に、意を決して初老達の後ろに付いて穴倉に進んでみた(今日の写真)。そこには「癇性やみ」には決して馴染めないお食事処が並んでいる。そして、何故か昔の空気がそのままよどんでいるような気がする。
まるで「龍馬伝の1シーンの様な白濁した情景」の中で、何が起こっても驚かぬと意を決して、観察しながら足早に通り抜けようと、おどおど目を配っていると、店の前にいる妖怪たちが誘い込もうとする。今日は、あたかもインディージョーンズのように勇気を振り絞っている自分がそこにいた。この通路は中央を縦断するので、中通りと呼んでいる。この左右に並ぶ、こまごまとしたお店の中では、ひしめき合うように肩を寄せ合って話し込んだり、乾杯したり、呑んだり、大声を上げたり、笑いあったり、真剣に話し合ったりする、初老達が、いつもより元気そうに、うごめいている姿がガラスごしに見えるのである。これが、外からは想像すらできない「しばし歳を忘れ、若かりし日に想いを寄せる」情景の実体だったのである。
ちょうど中間あたりにまでくると、朝方外から並んで見えるお店が蕎麦屋の「かめや」であったことが分かった。お品書きは近所の蕎麦屋と変わりないが、高くても380円前後という昭和の価格そのままである。その「かめや」の前を右へ折れて国鉄の線路側に出てみる。周囲も何度か探険しながら帰り際、角の珈琲店で一息入れようと入口に立った。そこは、昭和のムードそのものであった。但馬屋というお店で、室内では焙煎された珈琲の薫に水蒸気が混じった空気が漂い、様々なブレンドの珈琲の薫、しみついた煙草の臭い、これこそ、若かりし頃通い詰めた美味しい喫茶店の様子だったのである。
初老になったあなたも、そうでない若者諸君も新宿西口にある、この仕掛けの多い「昭和のアトラクション」を覗いて楽しんでみてほしい。
では、こちらから入場されたい。
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211102&app=WordPdf
補足1:初老=若者の視点では、40歳以上のことを指すようで、それは通説通りである。では、その40歳前後の人たちの意見はどうかと言えば、一次定年を迎える55歳以上と考えているらしい。しかし、最近のアンケート調査では、初老とは60歳以上と感じている人が52%もいるという。そういう理由で、上記の話の初老は、あくまで60歳以上を対象にしてある。
ええ俺?俺はまだだよ。
補足2:「昭和のアトラクション」=今や観光地なので、昔の様な「安さで安心」を競う場所ではなくなっている。