2012/07/10

オーディオマニア28



      1970年代の後半、スピーカは新たな計測方法によって、1つの転換期を迎えようとしていた。それが、今日紹介するデータの「インパルス応答による累積スペクトラム」である。スピーカ・ユニット、あるいは、スピーカ・システムの立上がりと立下りの状態を定量的に表わそうとした成果といえる。インパルス通過後の一定の反応時間から後部のデータを、高速フーリエ変換し、横軸に周波数を縦軸に時間経過を三次元表示したもので、立上がり、立下りを周波数別の均一性として把握することが出来る。ただ、当時は、この手法を使って業界の水準自体がより優れたスピーカの開発に向いていくには、ある程度時間がかかるという発言が多かった。

  このインパルスによる累積スペクトラム表示によって、そのスピーカ自体の発するピストン領域外の振動板の特有の共振状態や、前面に配置されたイコライザの鳴き、そのほか、ダンパー、エッジなどの微小な固有振動から、キャビネット内で起こる定在波、リード線の干渉など、様々な問題を解決するのに役立ってきた。実際の測定では、インパルスと言う言葉から来るイメージとは裏腹に50発程度のパルスを加え、平均的なレスポンス値を随時参照しながら高速フーリエ変換を行う。演算には時間もかかることから、当時としては最新鋭のHPのミニコン等が使われていた。もちろん、トゥイータなどの高い周波数領域での測定には、マイクロフォンはB&Kの1/4インチが使われている。

  実はこれに近いこととして、大昔からまことしやかにささやかれていたことがある。それは、「レコード盤からカートリッジが音をピックアップする時に、ついでに静電気などでパチパチというスクラッチノイズも発することがある。そのパチパチといった音が小さく聴こえる装置は、大変トランジェントに優れていて、ジャスなどの切れを要求する楽音に向くスピーカで、逆にスクラッチノイズが大きく聴こえるスピーカは、小さな部屋でも朗々と鳴り響くような性質があり、連続性のあるクラシックに向いている」と言うものであった。昔の人は、少ない情報からでも多くの性質を知ろうと努力していたのである。そうやって、スクラッチノイズの音を聴いて、過渡特性を推し計ろうとしたのかもしれない。時々、我々も部屋をノックして人がいるかどうか確認したり、あるいは、スイカを叩いてよく熟れているかどうか確認することがある。それも、これも1種のインパルス応答である。

  これらの測定方法の適用によって、振動板を始めとするエッジやダンパー、あるいはイコライザ等の構成部品の材料までも大きく進化させたといっても過言ではない。ただ、カートリッジやスピーカは、ある意味では趣味的で、さらにメディアに保存されている音を通して選ばれる傾向が強く、必ずしも理屈や測定結果で切り分けが出来るとは限らないことから、仮にも優れた評価方法だとしても、それがすぐに主流になるとは限らない。今日紹介している「インパルス応答による累積スペクトラム」は、その測定結果のほんの一部でしかないが、聴感との相関が採れる様になるまでには、ある程度経験的、あるいは実証的に活用するしかない。それでも、丹念に調べていくことで何か糸口が開けそうである。
・・・・とはいうものの、誤解のなきよう「これ自体は、あくまで1970年代後半の話」である。
 ではこちら
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