2012/09/11

日清ラ王

 それを食べた人748人、その人たちの平均の値付けは532円だったという、そんな無料ラーメン店が話題を呼んでいる。恐らく覆面メーカーが、ラーメンを無料で提供し、モニターをお願いしているのだ。あなたなら「いくらの値段をつけるか」というアンケートに答えた統計結果である。あの「綾鷹のこりゃうめえゃ!」というCMより具体性が高いといえる。店舗はプレハブで、殆ど具もなく、素ラーメンに532円がついたというのは、普通に考えると、かなり「美味しい」と思えるのだが、無料という状況が生んだ体裁のよい「日本人的儀礼」ともとれる。それを、額面通り受け取るのは、いささか危険かもしれない。

 視聴者に、それがきっとあの「ラ王」だろうと思わせるところに、日清食品の練られた戦略がある。即席袋めんの市場は、既に歴史的に評価を得た商品が売り場を占有している。この歴史的というのは、即席めんが出たころからのファン、つまり今の50~60代が青春時代を共にした定評ある商品(チャルメラ、サッポロ一番、出前一丁等)ということである。そんな商品が並んだお店に持ち込んでも、既に自社の商品(チキンラーメン、日清焼きそば等)が並んでいることもあり、置き場がないという理由で拒まれることも多い。売れるか売れないかわからない商品を売り場には置けないのが1番の理由だ。

 また、一方で唯一支持されている商品がある。それが、まるちゃん正麺(味噌、醤油、塩、豚骨)であり、それは思いのほかグングン売り上げを伸ばし、置き場のスペースを自ら広げていたのである。今やマルちゃんは、このシリーズだけで売り場の3割を占有していると言っても過言ではない。テレビCMの独創性やキャラクター人気の効果もあって、若者から年配にまで「美味しい」と評価されたのである。

 そういうマーケットのトレンドに対処するには、お客の「指名買い」を促すしかない。お店の担当者に常連客から「袋めんのラ王」は何処にありますか?と次々と声をかけるとすると、まず、「うちも置かないとまずい」と思うだろう。そして、テレビを通じて「美味しいわ」という大きな広がりで後押しをする。さらにもう1つ、顧客の選択肢に楔を打つ必要もある。どんなに美味しいラーメンでも、同じものは飽きる。他も食べてみたい、あるいは、あのラ王を食べてみたいと思った時がチャンスなのである。そうやってマルちゃんの牙城に一石を投じるのである。幾つかのチャンスを掴んで、袋めんのマーケットの大部分を奪回しようとしているのである。特に、これからは、「容器を捨てるのに困るカップめん」から「コスパの優れた袋めん」の時代へ戻りつつあり、力を入れざるおえない筈である。

 ・・・そんな事を考えながら、やや興奮して焼き豚を刻みすぎてしまった。麺を袋から出して「沸騰したお湯で4分茹でよ」と書いてある。茹で上がったら、少なめのレタスや卵焼きと合わせたい。「麺だけを取り出して、これは美味しい」というのもいかがなものか、と思うが、この表面つるつるの麺は、間違いなくとびきり腰が強く美味しい。実はゆで時間3.5分で、口にするまでに4分。スープは日清独自でモダンな印象の四川風味噌で、コシのある流行りの麺と、日清得意のスープで新たな世界を切り開くといった意気込みを感じる。それを生かすには、そのままストレートで戴くのもよい。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211191&app=WordPdf

補足:日本人的儀礼=日本の慣習によって定型化されている礼儀。ここでは、場所まで用意して、温かい食べ物を戴いたと言う意味でのお礼。食べたものの美味しさより、その「誠意を重んじる」と言う意味で日本的である。少々口に合わなくても、「良い数字を出しておけば無難」と言う意味でも日本的と言えよう。