呉を故郷に持つ私が言うのも変だが、牡蠣は三陸産の方が美味しい。ほんまか!と思われるかもしれないが、牡蠣は水質によって味が変わる。水温、汚濁、潮の満引きなどが牡蠣の生育に影響を与え、寒い海で、汚れ少なく、流れのある場所で採れた物が美味しい。一昨年の東北の震災の影響で、三陸産の牡蠣は、まだ出回っていない。そんなことから、広島、宮島、江田島、倉橋島、神戸などの牡蠣が市場を席巻している。そのパッケージ群を眺めると、故郷のイラストが懐かしいと思う反面、一寸寂しさを感じる。その場に三陸産の牡蠣が無いだけではなく、いまだ、たくさん「採れない現実そのもの」に寂しさを思い起こさせるのである。そこには、過去のイメージが大いに影響しているかもしれない。
都内では、かつて三陸産の「殻付きの牡蠣を仕入れ、それを使って牡蠣フライを作ってくれる」お店が幾つもあった。お店の前に「三陸の殻付き牡蠣入荷」と看板が出ると、勇んで入店したものだ。勿論、それが「大変美味しかった」のは言うまでも無い。調理の仕方として、フライにしたのでは広島産も三陸産も同じでは?と思われるかもしれないが、「いいや、違いは明白」である。生食はもっと分かりやすいかもしれないが、それだけは遠慮している。さらに、採れた後の経過時間は大きな味の違いになって現れる。したがって、当日、お店に入荷している殻付き牡蠣を、注文を受けてから処理して、新しい綺麗な油で揚げるのは、理屈的にも「大変美味しい」ということになる。これは、たった5~6粒ほどの少量なのに、とても高額だったが満足できた。そして、また食べに来ようと思えるのである。
実は、牡蠣の生食の危険度は、殻付きだからとか新鮮さとは関係が無い。「牡蠣は元々毒性を持っている」からである。したがって、採れたものを生食用として商品化するためには、殺菌工程が必要である。生牡蠣でお腹を壊すと酷い目に合うので、できれば加熱処理をお勧めしたい。加熱すれば、逆に牡蠣の鮮度の違いが分かりにくくなると思われがちだが、牡蠣は加熱しても鮮度の違いがはっきり出る。特に、殻付きの牡蠣は、採った後1週間程度ならば、痩せても生きている。つまり、殺菌しなくても、活きの良い状態を過熱して食べるのが、一番安心で美味しいということになる。
ここで、話をまとめると、1.殺菌した牡蠣と、採れたままの牡蠣は、安全性に違いがある。2.活きの良い牡蠣と、時間が経った牡蠣には、味に大きな違いがある。ということである。したがって、それぞれ食べ方を変えるのではなく、必ず、新鮮な物を入手して加熱して食べるのが一番美味しく安全である。また、すぐに食べない時でも、入手したらすぐに火を通しておくことも美味しく戴く手段でもある。鍋に使う場合は、多少臭みがあってもまぎれるが、牡蠣飯は、そうはいかないので、すぐに出汁で煮るなど手を加えておきたい。
そんな危険で日持ちのしない牡蠣でも、「男の料理として」お勧めできるのは、牡蠣飯か牡蠣の味噌煮である。今日は、最も安易に調理できる「牡蠣の味噌煮」を紹介しよう。牡蠣を鍋物に使うのは割りとポピュラーだが、牡蠣以外の野菜をたくさん入れると、味が散漫になるので色々入れない方がよい。ここでも、材料としては、牡蠣の剥き身、焼豆腐、白菜、彩の為に豆苗、生姜少々程度の構成にした。これらの食材は、それでも、たくさん水分が出て味が薄まるので、濃い目の出汁と八丁味噌をよく練り合わせたものを用意しておく。味の濃さは、名古屋の「味噌煮込みうどん」をイメージしてもらえばよい。かなり濃ゆい筈である。特に八丁味噌は、牡蠣や食材の臭みを消す効果があるので、牡蠣の臭いに敏感な人でも美味しく戴けるはずである。少し甘くしたければ三温糖(精製前の砂糖)を加えるとか、刺激が欲しいなら生姜を増やすとか、そこは工夫してもらいたい。御飯の用意はせず、最後にうどんを入れて締めるのも良い。
PDF写真は、生のままだと牡蠣がだらしなく観えるので、少し火が通った時点で撮影をしているが、食べ頃は、豆腐に火が通り、上に乗せた豆苗が萎れる頃がよい。
ではこちら
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