今時、オーディオに興味を持つ人は、ずっと上の年配の人ばかりかと思っていたら、若者でもオーディオ売り場で新しいスピーカに耳を傾けたり、店員さんと何か話しこんでいる姿を見かけることがある。そのような状況を目にすると、つい昔の楽しかった事を回想してしまう。最近は、とんと新製品(1989年以降)のことはわからないにしても、難しい顔をしながら拘る若者の姿に「彼も好きなんだろうなぁ、きっと苦労するぞ」と、にんまりしてしまうのである。オーディオは、受け売り型の趣味で、「缶詰を開けて、お皿に盛りつけて口にしながら、生とは違うけど、それでも、それなりに美味しいね」と言うのと、似たようなところがあって、生と比較しても理屈は通らないが、1つの理想を探求したいという目標を掲げると、それは、価値ある終着点として存在しているように見える。
少々先輩づらで話を進めるのを許してもらえば、昔のオーディオ機器はある意味で「理想を追求しようとする製品」が多かったと言える。理想といっても、エンジニアの自らの夢を実現しようとする姿そのものだが、そんな足跡の中から、ここでは、過去のオーディオ機器を題材にして、Hi-Fi 論とでもいうような表の看板に隠れた、実はたわいも無い話を展開してきた。ちょうど年寄りが、昔を懐かしがって同じ話を繰り返すようなものだが、実はそれが読む人によっては、「その頃の自分に照らし合わせて共感できるのだ」と逆に励まされることもある。今まで紹介したオーディオ機器は、今だに我が家でなんとか「稼動している機器」ばかりなので、大昔の話とは思えないが、まれに、写真が出てくると、記憶が蘇るというケースもあるので、今日は、その写真の中から1枚を選んでみた。オーディオ機器の魅力は、人によって異なるが、中でもメカとエレキが同居したものに異常なほど執着する人がいる。
数々の名機といわれるオープンデッキを世に送り出してきた老舗のテープデッキメーカーとして、カセットデッキの理想的な姿を追い求めてきたティアックが、集大成とも言うべきカセットデッキC-1を登場させたのは1978年である。隅々まで実用的に考え抜かれ、全く無駄が無く質実剛健ながら、技術者が自分の拘りのために作ったと思われる程の傑作である。デュアルキャプスタン方式で3モータの堅牢なメカニズムを搭載し、アンプ系は直流アンプで構成し、再生EQを樹脂モジュールで固める(プロトタイプだけだったかも)など、各ステージには、ふんだんに新機軸が盛り込まれていた。また、テープごとの調整は抜き差しできるカード(下の写真CX-8)になっており、テスト信号発生器(TO-8)の400Hz、6.3KHz、12.5KHzを使って BIAS、LEVEL、EQ調整を行い、フラットな周波数特性を得ることができる。これによって、必要に応じてテープ別にカードを差し替えてセットアップを完了させる。しかし、当時、同社は「コバルト吸着型テープ」を推奨しており、それによると事実上カードは合計2~3個もあれば十分であった。
同社はテストテープの製造・外販をしており、そのために自社デッキの再生特性を完全な状態にセットする事が出来る。したがって、そのままフラットになるように録音することで、C-1で録音されたものが、他社のカセットデッキでも綺麗に再生できることになる。このクラスのデッキに求められるのは、自己録再に留まらず、他社との互換性も当時は重要な課題になっていた。また、それによって、生録音をするマニアにとっては、絶対的な信頼を寄せることが出来たようだ。現在50本近い手元にある自家録音テープは、全てC-1によるものであり、現在他社デッキで再生しても、綺麗に再生できている。一方で、市販のミュージックテープを再生すると、ややハイエンドを抑えた再生音になるテープもあり、ミュージックテープ製造側の品質管理の難しさを垣間見ることも出来る。そのような現実にあわせてナカミチのデッキを置くマニアも少なくなかったと推察される。
その後、C-1はメタルテープ対応としてMKⅡ化し、また、前面デザインを統一したローコストタイプC-2、C-3なども市場投入されている。C-1MKⅡを使ってメタルテープへ録音した当時のカセットテープも30本ぐらい手元に保存してあり、それを現在再生してみると、メタルテープの保存性能の悪さ加減がよく分かる結果になってしまった。やはり、当時テストテープの製造をしていた同社は、既に保存性能において、コバルト吸着型テープの方が良好であることを把握していたと思われる。
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211492&app=WordPdf
補足:質実剛健の設計といっても絶対額として、当時本体のみ 238,000円は割合高価な部類であった。