2014/01/31

麺職人 鯛だし仕立ての塩

  上手に作られた鯛のお吸い物は、とても美味しいが、本物の鯛を調理してそれを上手に作ることは難しい。和食の料理人ですらそう溢すことがあるようだ。一般的に鯛のお吸い物は、さっぱりした椀の代表のように言われるが、それは、たまに口にする人たちの感想であって、馴染みの多い人のそれではない。確かに、一口、二口、あるいは三口でもよいが、最初は美味しく感じるが、時間とともに鯛の脂が体に回ってしまい、そのうち、結構「ひつこい、あるいは、しつこい」と思うことがある。これは、鯛の風味と脂分の不均衡によるもので、大方は脂が邪魔をしている。したがって、脂を抑えながら鯛の風味を引き立てるのに工夫が必要になるようだ。

  ローカルな話にしても珍しいかもしれないが、かつて川向こうの「稲田堤」には「鯛ラーメン」のお店があった。鯛から採った出汁がラーメンに使われていて、その透明なつゆと細い麺とが絡まって、実に上品でさっぱりした感じに見えるのである。あくまでも「見える」なのである。どの客も、最初の一口、二口は首を横に振り、贅沢感に浸りながら「美味しいすね」と興奮した面持ちですすっているが、最後まで出汁を飲み干す客はいない。店主はそれを苦にして出汁に工夫を重ねていたようだが、単純に薄味にすればよいというものでもない。そこに、「何を引き立て役に使う」かが重要になる。しかし、そこに着眼し、それを追求するお客は多くはいなかった。このことは、鯛の出汁を使う時の難しさを示しているといえる。

  かつて日清食品は、2002年に、麺の達人シリーズで「鯛の炊き出し風味しょうゆ仕立て」を発売している。これは、鯛のだしと、チキンスープがバランスよく調和し、魚の臭みのない、あっさりとして上品なスープに仕上げ、今までにない新鮮な味と香りを堪能することができた。また、2006年には、おぼろ豆腐の入ったカップスープシリーズに「鯛だしの桜風味(焼鯛の香ばしく上品な出汁に、桜の風味がほのかに香るスープ)」を販売したが、これも素晴らしい作りだったと思う。いずれも冬場の季節限定品として大変評判の良い商品だったようだ。

  今回登場した、この麺職人「鯛だし仕立ての塩」は、上品な鯛出汁に、生姜や赤唐辛子で鯛の魚臭さを排除し、ちょっぴり辛めに仕上げられている。麺は得意の「まるで生めん」のノンフライ、中細ストレート麺仕様で、申し分のない食感と味わいを提供している。お湯の投入目安410ml、待ち時間4分で、麺はやや硬めの仕上がりになる。ピリッとした鯛出汁の美味しさは、寒さ厳しい折にも丁度よい美味しさに仕上げられ、冷えが応える女性や年配の人たちには、お味、喉越し、量、共に適切な感じで、温たまる最高のカップ麺となっている。これぞ、麺職人の技といったところだ。
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