2014/03/18

春を呼ぶ桜えび

  テレビ番組では、美味しい料理のお店とか、格安で料理を提供するお店とか、地方の特産物を扱うお店とか、手を変え、品を変え、美味しそうなお店が紹介される。そんな料理に舌鼓を打ち、美味しい!美味しい!と連呼するレポータの姿を見て、「そんなん 嘘だ!」と思いながらも、俺も行ってみたいと心で呟くことがある。しかし、お店の外が写ると、そんな長い行列に並んで、さらに混み合う店内で、肩が触れ合う距離で「口に物を入れる」なんて考えるだけでも品がない。そこでガックリと意気消沈してしまうのである。もちろん、特別大盛りだとか、特別格安という程度では、さほど興味をそそる事はないが、名物とか季節物には、やはり独特な魅力を感じて、何とか少しでもいいから口にしてみたいし、想像は出来るものの、是非にでも味を確かめてみたいと思うことがある。一度試してみれば、それはそれで気が済んでしまうのである。

  毎年、春先になると新幹線の車窓から、桜えびを干す真っ赤な風景が広がるのを眺めることがある。また、お店では、「桜えびのかき揚げ」などを美味しそうに食べる姿がテレビで紹介される。桜えびは、珍しいえびで、静岡県の駿河湾だけでしか水揚げされることはない。それには、駿河湾へ流れ込む大井川、安倍川、富士川の3つの河川によって、「独特の漁場が構成されているから」だと地元では説明されている。したがって、新鮮な桜えびの色彩や食感は駿河湾近郊でしか口にできない。つまり、現地を尋ねて楽しむしかない逸品なのである。2012年の2月中旬までは、小田急線のロマンスカー「あさぎり号」が新宿から沼津まで直通運転していたので、東京から訪れるのに1本だったが、今は御殿場からJRへ乗り継がなければならない。

  名物は、基本的に食べに行くのが作法である。新鮮さが売りのなま物は全て同じである。しかし、加工を施すことで別の風味が活きてくる食材は、その限りではない。それらは、大漁に採れる時期には、火を通したり天日干などで、レトルトとか乾燥品などへ形を変える。そうすることで日持ちを改善したり、幅広く料理に応用できる食材に変貌を遂げる。それらは、食べ方を吟味して作られているので、意外に美味しい物が多い。今日は駿河湾で獲れたと明記されている「桜えびの炊き込みご飯の素」を買ってきた。これを食べて、少しだけ沼津へ行った気分になってみたいものだ。これで新たな発見とか、現地へ行きたい願望が湧きあがってくれば、流行りの路線バスを乗り継いででも、駿河湾一帯を食べ歩いてみたい。桜えびのお祭りは5月の連休に行われることから、早めに「桜えびの炊き込みご飯」を堪能しながら、違いの分かる男になっておくことにする。

  この「桜えびの炊き込みご飯の素」のパッケージの中には、乾燥桜えび、出汁(液体)、乾燥した野菜の3つの具材が入っている。これをお米2合と通常の目盛りの量だけ水を加えた状態にして、3袋の中身をすべて投入するよう指示されている。「桜えびと野菜は乾燥状態なので少し時間を掛けて、漬け置きするべきか」と知恵を出すが、説明書には「漬け置きをする場合は、本品を投入する前に行うように」と注意書きがある。つまり、必要なさそうである。炊き上げ途中は、香ばしい桜えびの香りが部屋中に広がって、久々にうれしい雰囲気になる。炊き上がるとその出汁で釜にお焦げができる。これがまた、すこぶる美味しいのである。駿河湾で獲れた桜えびだからといって、特別に美味しいと絶賛するとテレビと同じになってしまうので控えたいが、たまに戴くせいか、とても美味しく感じる。また、手軽に春を感じながら戴けることが美味しさに繋がっているようだ。
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