この2作品こそ、自らの「幅広い知識と洞察力」によって、隅積みまで気を配りながら楽しむことが出来る。さらに、作品がより現実的に広がりを見せ、ストーリーのテンポの良さと相まって、脈々と鼓動のような躍動感が伝わってくる。しかし、あまり具体的に前知識が「詳しすぎる」と逆効果にもなる危険性をはらむという ・・・ 難しい 2作品。
グレース・ケリーの話題は、何度か映画にもなり世間では広く知られている。また、宮殿から街に出る下り坂のカーブを自らの運転で曲がり切れずに亡くなった話は有名で、その彼女の結末を知るが故に、モナコの公妃になった苦悩が、見え隠れする映画なのだろうと思ってしまうのである。そんなわけで、少々寂しさを感じ、観ない方が良いかも?とも思っていた。
安易に批判するつもりはないが、だから、「たとえ裕福な国でも、素晴らしい愛に導かれよう」とも、異文化の世界に飛び込むのは難しい。まして、モナコのような歴史ある国で、さらに保守的な国民から愛される公妃になるには時間もかかる。その大きな課題を克服しながらも、オスカー女優(アカデミー賞受賞)ならではの役柄を自らに課して、モナコをフランスから守り切るというストーリーになっているが、あくまでフィクション。でも、グレース・ケリーだからこそ「世界を動かす」そんなことが現実に出来たかもしれないと思わせるところが、この映画を素直に受け止めてしまうところだ。また、グレースの利発な性格を引き立てるため、モナコ大公レーニエ3世は少々保守的で気弱に描かれている。彼の名誉のためにも、そこもあくまでフィクションとして観ておきたい。それにしても、フランス大統領シャルル・ド・ゴール役は、いかにもといった顔つきに違和感を感じてしまう。
「グレース・オブ・モナコ」の公式ホームページはこちら http://grace-of-monaco.gaga.ne.jp/
「誰よりも狙われた男」は、諜報機関の裏の攻防戦を描いた話。あらかじめ映画のストーリーを知らず、全く白紙の状態の方が全体を楽しめるかもしれない。人を狙撃するとか、華麗なるスタント、スピードあふれるカーチェイス、あるいは拷問によって自白を促すとか、そういったずば抜けたテクニックを披露するスパイ映画を見過ぎている我々には、少々物足りないかもしれないが、それでも、そこに存在する緊迫に満ちた空気感は終始貫かれている。そして、テロ対策チームのリーダーのギュンター・バッハマンことフィリップ・シーモア・ホフマンの気迫がじわーっとスクリーンからも伝わってくる。情報源として利用し、後戻りさせない命がけの工作と、いつ何が起こるか分からない緊張感の中でストーリーが展開する。目を付けた密入国者イッサ(イスラム過激派という汚名を付けられている)に他の諜報機関からも関心を持たれ、接触してくる面倒くささに耐えながら、イッサを誘導して組織の大物を一網打尽にしたいと考えるバッハマン。それに対して、早々と片付けたい米国CIAも途中で幾度となく介入しながら、作戦半ばでそれまでの成果をかすめ取り、イッサまでも連行してしまう。平素は物静かなバッハマンが声を荒げて怒リ狂う。
「誰よりも狙われた男」の公式ホームページはこちら http://www.nerawareta-otoko.jp/