2015/04/20

ホテルオークラの味を伝える缶詰

   最近は、有名なホテルの中にあるレストランでも、食材の諸元をきめ細かく表示するようになった。お陰で、やっぱりそうだったかと思うことも多い。先日の話になるが、お昼のメニューを開くと、おっと、美味しそうな「お肉のステーキ(4,320円)」の写真が目に飛び込んできた。しかし、その下には「牛脂注入加工肉を使用しております」と併記してあった。正直なのは良いが、正々堂々とそのように書かれてしまうと、暗に「旨いかもしんないけど、品質は保証しないよ、シェフとしては責任ないからね」と宣言しているようで、意気消沈してしまった。

 そんな表裏一体の事情は、あからさまにせず、お客が「まさか」と思うように、気持ちよく美味しくいただける方法を考えて欲しい。それが調理技術ではないか。もちろん、そんな高額なお昼をオーダーする気分の持ち合わせはないが、その表記によって、すんなり、お客は夢を捨てて、引いてしまうのである。つまり、社会の中の「正直」と「開き直り」は、同類語でも反対語でもないのに、食事提供者側では極めて近い距離感にあるといえる。

  さて、話題は少々横道に逸れたが、それがきっかけで、今日は、昔から美味しいホテル・ブランドの缶詰を紹介しておきたい。最近、スーパーやコンビニなどに出回っているレトルト食品の中にも、かつて一流ホテルのレストランで出されたようなカレー、ハンバーグやビーフシチューが販売されている。しかし、実際に口にしてみると、それなり(対価格比で)にお味はよく出来ているが、本質的には全然違う(肉の質やカロリー感)ことに気がつく。そこで、確固たる信念のもと、戸惑うことの無いように、真似の出来ないホテルの味を、時々リファレンス(標準的なお味)として、しっかり頭に叩き込んでおこうと思う。もちろん、ホテルの味が全てではないし、好き嫌いもある。しかし、歴史と伝統の中で培われたお味は、少量でも見逃せない程の満足感を体に刻むことがある。

 そんな、こじ付けにも似た屁理屈はどうでも良いが、あの4,320円の牛脂注入加工肉を使用したステーキの印象が、頭の片隅に残っていて、どういう訳か「そこに何か大きな勘違いを見せ付けられたような気になって」、小田急デパートの地下で、ホテルオークラの缶詰を探していた。すぐに食べたいわけでもなかったが、なんとなく「心の不安を解消して満足したい」と思ったのである。サラダは別途用意するしかないが、スープ、ハッシュドビーフ (=牛肉のこま切れを炒めてデミグラソースで味付け加熱したシチュー)を揃えて並べてみた。ハッシュドビーフを単品で出されると、ご飯の上に掛けてハヤシライスで戴く人、あるいは、パンと一緒にビーフシチューのような食べ方にする人など様々だが、ハッシュドとは、「細かくした」と訳すと分かりやすい。つまり、料理の仕方を指した呼び方であって、どんな食べ方をしようと、周囲からとやかく言われる筋合いは無い。
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