違いの分かる男は、秋刀魚に檸檬汁なんぞかけたりしない、「すだち」に決まっている。この酸味の違いを知ることは、重要な味覚の基礎である。また、秋刀魚の表面に残されている塩の中に旨みを感じ、さらに「本醸造の醤油」をたらし、塩分の含まれた食材に塩分の含まれた調味料で旨みを引き出し、食欲をそそる。これこそが、日本人の節度ある貧欲な食べ方であり、味覚の原点でもある。 しかし、忙しくて活動的な若者は、秋刀魚なんぞよりも、ステーキが良いと思っている。塩と胡椒で表面を少し焦がした良質のお肉の旨みは、それだけで最高だという人も少なくない。 いずれにしても、塩は料理に重要な役割を果たす。
海水から取れる自然塩には、マグネシウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、銅、クロム、ヨウ素、のほか様々なミネラルを多く含む。これを最近まで上手に生製する事が出来なかった。前回紹介した「ぬちマース」は、海水を霧状にして、空中でミネラルを瞬間的に結晶化させる国際特許製法によって製造され、「最もミネラルを多く含んだ美味しい塩」として評価されている。おおよそ1g10円である。ちなみにこれは、一番絞りのエクストラ・バージン・オリーブオイルよりも僅かに高いものになっている(へー)。
今日は、そんな自然塩を積極的に利用したものを使う。「かたくちいわし」を長時間「塩熟成」させ、オリーブオイル漬けにした「アンチョビ」である。アンチョビは、高血圧になる可能性がある年配の方には、お勧めできない(一般論)が、実は、カリウムが塩分を放出するため、神経質になる必要は無いと思う。だから、命がけの食材ではなく、それこそ、枯れた大人の食材である。
アンチョビは、そのままピザのトッピングとして、また細かく裁断してドレッシングに添加したりすると、粗末な料理でも一転して上等でお洒落な味になる。イタリア・レストランなどでも、メニューにはふんだんにアンチョビの記述が見られるが、実際の料理には、実体を認識することは少ない。 そんな姿無き不満を一挙に解消するため、アンチョビのフィレを贅沢に使って、枯れた大人の味を強調する。自作料理は、素材をけちけちしないで、その旨味を強調してこそ嬉しいのだ。 そして、それを食べることで、初めて「堪能する」という言葉が使われるのである。
ブロッコリーは、マーケットで購入し、5分程度湯通しをして鮮やかな緑を強調する。アンチョビは、アヲハタを使っている。残ったアンチョビは、別の容器に移しておく、塩分が多いので腐りはしないが、早めに別の料理に使用する。今回のポイントは、パスタを茹でるお湯の塩分を少なめにしておくこと、これが重要である。そして、アンチョビとブロッコリーを合わせ、塩の加減を調整する。さらに、大き目のフィレを盛り付けて仕上げる。アンチョビ・ファンなら、今日は、徹底してアンチョビの旨味を堪能してほしい。
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