2009/03/13

ディスカバリー1

 過ぎ去った昭和を懐かしく思う人が増えているようだ。中でもオーディオ熱が再び蘇ると、始末が悪い。友人もその1人だ。コンピュータ会社で最先端のハードウエアの開発をしていたが、疲れ果てたといって、何年か前にアメリカから戻ってきた。今は、コンサルティング会社を経営しているが、家では密かに真空管アンプを作って楽しんでいるらしい。昔から多くの真空管をストックしていたようで、50歳過ぎて夢を実現しようとしている。お仕着せではなく「最初から自分で考えて、これと思った事」をとことんやることに喜びを感じているようだ。髪の毛もなくなって、お腹も出ているが、その熱中した姿は、昔を髣髴とさせる。それにしても、頭の毛がなくなると、何でひげを生やすのだろう、それではまるで「おやつのカールのおじさん」じゃないか。・・・・・と思いながら、私は、再び 「おい、聴きに来ないか?」 といつ声がかかるか分からない恐怖に脅えている。 

 私が、オーディオに興味を持ったのは、大学時代である。回りの学友はみんな、オーディオを当然のように趣味にしていた。「電子計算機や情報処理を専攻しているやつらが、なぜ、オーディオなんだ!」と思いながらも、周囲に影響され、夜は毎日のように真空管アンプの音を聞かされた。しかも、彼らのオリジナル設計である、回路がどうの、部品がどうの、ああでもない、こうでもない。使う部品で音が変わるなんて、雑誌が話題にする前から、厳然とした事実があった。学生食堂でもそんな話ばかりしていた記憶がある。私は、電子管工学の授業で、二次電子放出と言われても、それがさっぱり見えない事が不満なくらい疎い方であった。しかし、「門前の小僧お経を読む」ではないが、どんどん彼らによってオーディオの世界へ引き込まれていったのである。よく考えてみると、彼らにとって計算機室にある「電子計算機自体」が趣味に近かったようだ。この頃から、自然に自分に「知らない事を聞き出す能力」が養成されて来たのかもしれない。「知っていること以外は、知らないこと」を信条に、知識や理屈を組み立てていく。だから、基本が分かってないと言われることもあるし、そんな理屈は無茶苦茶だとも言われた。反論として、「分かってない俺に、分かるように説明できない」お前は、本当に分かっているとはいえない、という屁理屈もこねた。そのくらい、オーディオとは、「理屈と音」を結びつける趣味である。分野は、マテリアル、自然科学、大脳生理学、音楽、物理、数学などに及び、議論は尽きない。だからこそ、ライフワークにもなる。ただ、趣味はなんでもそうだが1人独自で楽しむのは辛い。仲間が必要なのだ。理屈をぶつけ合い、自分の考え方を検証しながら話題を展開する。集めてきた情報を議論するとき、大脳も活性化する。実際に出ている音よりも、はるかに細かい話をしながら聴き比べをするのは、ある意味、苦痛でもある。 そこは時間と共に「戦いの場所」と化してしまうからだ。

 ちょっと、余計な話になってしまったが、最近、歳を重ねた人が、本格的にオーディオ装置に手を入れるケースが増えていると言う。アンプは、マークレビンソン、スピーカはJBL、CDプレーヤはPhilips とか舶来の高級品が人気が高い。お金に余裕がありすぎるのも考え物だ。スピーカ・ケーブルにまで数十万円のお金を使うようになるという。オーディオを再燃させた動機は、そのような場所に遭遇したからかもしれないし、そういう装置しか販売していないという現実もあるのかもしれない。しかし、どのようなオーディオ装置を用意するにしろ、終わりの無い趣味であるから、先行きに「適度な夢」が無ければならないし、自分が求める音作りが必要だ。趣味は、理屈と実践が一致した時、初めて喜びを感じる事が出来る「頭のスポーツ」である。自ら考え、作り、あるいは工夫し、そして第三者の評価を得る。そのプロセスを繰り返しながら、少しづつ趣味として充実したものになるはずだ。

 結局、私はオーディオマニアにはなりきれず、「門前の小僧」を脱していないが、それでも、音を鳴らすすべは知っているつもりだ。先日も、秋葉原でかつての銘器といわれるスピーカ・ユニットLE-8Tや2405の展示処分品を見た。思わず、オブジェとして買いたい!と思ったが、結局、それを眺めながら、遣り残している事があることを思い出し、断念してしまった。しかし、それが大きなきっかけになり、倉庫を整理してみる気持ちになった。そんな動機は、誰にでもあるはずだ。だから、このPDFから何かの刺激を受けて、できれば再燃してほしい。今日紹介するスピーカ・ユニットは、1983年5月に「ラジオ技術」誌に原稿をまとめた後、予備で購入した補修部品と実験用部品のストックである。友人のように再び情熱が蘇れば楽しいかもしれないが、と思いながら、記念に写真を撮って再び倉庫の奥にしまってしまった。ではこちら
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