2010/04/27

昭和の流行歌3


 前回に続き、我が青春真っ只中であった70年代に流行した歌謡曲を振り返ってみたい。丁度、17~27歳なので、記憶もかなり鮮明である。当時は、第2世代のオーディオ装置へマイグレーション中であり、本格的な音質の追求に向かって動き始めていた。学生だったのでお金は無かったが、知り合いが文化放送で仕事をしていて、補修パーツとして2S-305のユニットTW-25とPW-125 を手に入れてもらった。そんな古い型名を挙げても分からないと思うが、三菱電機の放送局用のモニタースピーカで、早い話、よく聞こえるスピーカ だったのである。このスピーカのお陰で、当時は、クラシックと歌謡曲をよく聴くことになった。このとき、ランサー101 やLE-8Tを買っていれば、聴いた音楽も変わっていたと思う。いやー、その影響で、人生そのものも変わっていたかもしれない。

 2S-305 は、キャビネットの回折効果まで改善した設計で、人の声の明瞭度はとても滑らかであった。低音は当時、Q=1 とすることになっていた。これは、自由空間でf0まで周波数特性を平坦にする条件だが、バスレフでは、ポート内の空気が共振するため、過渡特性はやや引きずる感じになり、パルシブな低音再生には不向きだったが、弦楽器の低音は厚みが増して実態に近い感じが得られた。キャビネット内の空気のスティフネスとバスレフ・ポートによる共振特性に関しては、定数を変えて、時間の掛かる計算を何度も繰り返した記憶がある。その後、Q=0.7 → 無限大バフルとQ=0.5 へと過渡特性を重視する時代へ向かうことになるが、その頃は既に面倒な計算を、当時生まれたばかりのパソコンに任せ、プロッターで周波数特性を描かせるようにして、その結果と、実際の無響室での特性を簡単に比較できるようにした。これによって、スピーカ・ユニットやキャビネットの形式によって、正確な定数さえ分かれば、おおよその低音の周波数特性と過渡特性がイメージできるようになった。そういう意味で、当時は複雑な計算を行わせるのにパソコンは凄く役に立ったという印象がある。
 どんどん話が横道に逸れて行きそうだが、今、この「青春歌年鑑70年代」を聴きながら、「そんな、謎を解くような、面白くてしょうがなかった」時代を思い出すのである。

 さて、つまらんことはこのくらいにして、当時、日曜日の朝に「スター誕生」というTV番組があって、そこでコメントを出している、何やら、とてつもなく怖いおっさんがいて、しかも、彼の言う事は、理にかなっていて「うーん、含蓄のあるおっさんやなー」と、どこか魅かれ、印象に残っていた。彼は、なぜ、「そんな、軽く偉そうなことを言いながら、人を納得させられるのか」、当時は、不思議で仕方なかったが、後々になって、本当に「凄まじく、恐ろしいおっさん」であった事を知るわけである。

 そんな印象で占められていたのが、上の写真のおっさんである。勝手に写真を使うと肖像権の侵害になるので、申し訳ないが、CDのジャケット紹介風に仕上げて、引用にさせていただく。このCDは、彼の代表的な作詞作品がビクター自慢の歌手の歌声で収められている。例えば、森進一が「津軽海峡・冬景色」を歌うとか、「北の宿から」を青江三奈に歌わせるとか、かつて無いような凝った作品になっているが、一方で、歌手の基礎歌唱力が露呈して、落胆してしまう歌手も多い。CD番号は、VICL-62668-69 ビクターエンタテインメント株式会社。 もっとも、誰が歌っても彼の詞は、人の心を鷲づかみにする情景描写に特徴があり、強烈な印象を残す。幾つか代表作を挙げてみると、「ざんげの値打ちもない」、「白い蝶のサンバ」、「舟歌」、「青春時代」、「せんせい」、「どうにもとまらない」「勝手にしやがれ」、「絹の靴下」、「みずいろの手紙」、「また逢う日まで」、「ブーツをぬいで朝食を」、「五番街のマリー」、そして、「UFO」などピンクレディー全曲など、そのバリエーションの広さと、さらに、そのインパクトの強さは群を抜いている。作詞数はもちろん歴代第1位である。つまり、このおっさんの言葉の魔術で、70年時代の若者達は、ひどく大胆で開放的な青春を過ごせたと言えよう。

 だいたい、どんな優秀な人でも、何か独特の一種の繰り返しによって作品の量産効果を高めようとするが、調べれば調べるほどに、次から次へと、これも、あれも、ええー、これもかよ、というぐらい彼の作品は多種多様に発掘でき、手抜きがない。その作品を読みながら、よく、この様な表現が出来るなぁと、尊敬の念を懐き、腰が抜けそうになるくらい、素晴らしい表現力に打ち震えてしまうのである。そこで、70年代の歌謡曲を、「阿久 悠」という著名な作詞家を基軸にして、歌詞を楽しみながら、色々分析するのも面白いと思う。

 ここでは、前回に引き続き1970年代の流行歌をまとめた青春歌年鑑70年代「総集編(ポニーキャニオン PCCA-02094)2枚組み」2,980円と、1970年ベスト「演歌歌謡編(テイチク エンタテインメント TECE-19525)」1,980円 を紹介したい。 この2セットのCDは、前回同様デジタルリマスターリングで、当時のLPよりもはるかに綺麗な音になっているが、60年代ほど新鮮に感じられないのは、既に音の1つ1つをしっかり、記憶しているからだと思われる。もちろん、前回同様この3枚のCDで、ぐぐーっと楽しかった1970年代に引き戻されてほしいが、60年代の歌詞に比べて、いささか言葉が現実味の強い表現に変化してきていて、現在の作品に近い印象を受ける。さらに、70年代は歌謡曲の全盛時代なので、切り取る断面は様々にあり、別の機会にでも異なる断面で何度か取り上げてみたい。
ではこちら
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