2010/06/15

聴診器

 今日は、道具の持つ洗練されたデザインを写真にしてみた。この聴診器は、昔、仕事で関わった時に戴いた物で、その時は、超音波装置の購入者へノベルティーとして用意された物だと聞いた。そう、家一軒より高い装置を買って、抽選に当たると聴診器が貰えると言うもののようだった。当時、私の一寸した事が、同社の担当者の難題を解決する事が出来て、そのお礼という形で頂戴したものである。昔から、この会社の商品は高額だったため、たとえ聴診器といえども、殆ど個人で所有しているドクターはいなかったと思う。使い道に首をかしげながら、当時、周囲には、音の良さとデザイン等を自慢した記憶がある。
 
 現在この会社は、プリンタとコンピュータの会社になってしまったが、かつて1999年までは、世界No.1の計測機器メーカーであった。そして、世界のトップクラス(SIEMENS,philips,GE 等)の巨大企業がひしめく医療用診断装置分野でも、心臓用の超音波装置で圧倒的な性能を誇り、世界No.1として君臨していた。1980年に64チャンネルの心臓用超音波装置を世界で最初に開発している。当時としては極めて高速な性能を備え、心拍をリアルタイムの動画映像で表示できている。現在でも、心臓専門の病院を訪れてドクターに聞くと分かるが、この会社の超音波装置を使うと心臓の弁の動きや血流の様子がつぶさに分かるらしい。そして使い慣れると、他の会社の製品は使えなくなる、ということのようだ。その歴然とした性能の違いは、今でも常識のようである。

 分野の違う、電子機器製造関係の会社で働く、少々古いエンジニアへ、その話をすると「やっぱりな」とうなずく。今、仮に自分が開発した製品のデータを収集して、世界中のエンジニアに公表したいと思ったとき、この会社の計測器を使ってデーターを収集していなければ、相手にしてもらえないことを経験的に知っているからである。まさに、プロフェッショナルが使う道具を作る会社だったのである。これらの計測機器は、外見からは想像も出来ないが、極端に優れた価値を備えている。そこには、計測理論はもとより、マニュアルやコネクタ、つまみ1つに至るまで理論的にも電気的にも正しい構造を備え、徹底した思想に溢れている。それは、使えば使うほどに価値が分かってくるし、信頼できることもわかる。それがその優れた道具の備える価値なのである。そして、いつしか、プロフェッショナル1人1人がその徹底した計測器の設計思想に憧れるようになるらしい。

 デザインには、その道具が備えている性能、機能、使いやすさなど、全てが反映される。使えば使うほどに、使う気持ちの良さが伝わってきて、すぐに体の一部になろうとする。そして、単純な道具になるほど、それは顕著になるのである。聴診器は、50年ほど前にこの形になってから、今日まで殆ど変わっていないが、この会社の聴診器は、やはり、無駄がなく「とびきり美しいデザイン」をしている。PDFに示したとおり、かつては、完成品のみならず、全ての部品が1つ1つ販売されており、組み合わせた時の完成度も非常に高い。
 
 さて、聴診器なんか何に使うんだ、と問いかけられそうだが、映画などで良く見かけるシーンで、古い大きな金庫を開けるときに一緒に使ってもらうと良いと思う。金庫のない人は、自分の心臓の音を聞くと、凄まじい重低音を聴く事が出来る。これは映画館のスピーカからの音では、絶対に再現できない重低音のファンダメンタルが含まれている。さらに胸部の呼吸音、これに雑音を感じたら即病院へ行ったほうが良い。そしてもう1つ、胃腸の動きなどを聴くのはどうだろう。とまあ、せいぜい自己診断の為に1個ぐらい常備しておいてもよいかもしれない。勿論、ペットの健康管理などにも役立つ。 いずれにしても、解剖学的な勉強はしておかなければならない。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21698&app=WordPdf

補足 このhp社は、1999年に会社分割が行われ、コンピュータ分野と計測機器分野(電子計測、化学分析、医療診断、電子部品等)が分かれて別の会社になった。その計測機器分野は、アジレント・テクノロジー社が受け継いだのである。しかし、同社は、医療機器部門を2001年にフィリップスに売却している。そこで、当時を思い出せるようにpdfを仕上げたが、製品番号、部品番号は、hp社時代のものである。