今日も、昭和の流行歌を代表する2枚のCDを紹介したい。1つめのCDは、クレージーキャッツのベスト版で、ディスク・レコードをCD化した製品になる。音声は、当時の音響技術を反映してモノとステレオの混在となっており、原版はかなり古いことが分かる。恐らく1960年代の前半頃と思われる。さて、いつの時代も、世の中を 「斜めから見る」、「ひねって眺める」とか、「口にしにくい本音」で迫る時に、一寸だけ面白いと感じる側面を垣間見ることができる。 普段は気が付かないことでも、クレイジーキャッツの歌詞にあるような際どい人間関係描写は、より具体的でシビアな経済関係の上に成り立つとして捉えることが出来るし、その延長線上で社内のサラリーマン観を戒めてもいる。さらに、全体を通して、この右肩上がりの先にある、繁栄による壮大なロマンを感じるのである。当時の激しい競争は、サラリーマンと言えども「社内で営業をする為に出かけているのと同じ」であった。そんな切実な気分を反映しているせいか、空前のヒットに繋がったと推察される。一方、現代のサラリーマンは、社内で「給料が同じなので、無駄を省き、できるだけ働かない方が、省エネでお得」になると考えるらしいので、今では流行らない。まさに時代が変わったといえよう。
このCDには、そんな右肩上がり経済のダイナミズムを感じさせる曲ばかりが集められている。これらの曲がヒットした後、その曲にふさわしい映画(東宝クレージー映画)も作られてきた。植木 等さんがサラリーマン役で、歌詞のイメージをそのまま演じるといった「笑いが止まらないくらい楽しく、愉快で、勇気の沸いて来る映画」なのである。かつては、お正月の深夜番組で5年おきぐらいに何度かシリーズで登場していたが、最近は見かけなくなってしまった。何度見ても、やっぱり笑えて楽しいが、身近なことに置き換えてみた時、自分には、とても真似出来ないが、それを簡単に出来たら人生がどれだけ楽しいか、と思ったサラリーマンは多かったに違いない。それによって、多くの若者が勇気付けられた。
2枚目は、テレサ・テンさんのベスト版である。台湾から来た女性歌手はみなさん個性的であったものの、テレサ・テン(鄧麗君、デン・リージュン)さんは、どのようなジャンルの曲でも綺麗に歌う人であった。台湾のみならず、中国、東南アジアでアジアの歌姫として君臨し、絶大な人気を誇り、レコード売り上げ枚数で群を抜いた実績を残している。ジュディーオングさんも、欧陽菲菲さんも同じだが、歌詩の中の英語部分の発音が優れているので、そこで外人さんである事を思い出すことがあったが、彼女達は日本語の歌詞を「心をこもめて丁寧」に歌っている(そうでないチャンもいた)。ここが最大の魅力だったのである。しっかりした音程感はもとより、声質も魅力ではあるが、丁寧に気持ちを込めて歌うことによって、歌詞の内容がより哀愁を帯びて聴こえ、片言のように聞こえてくる部分には一種の可憐さを伴っていたのである。
作曲家:三木たかしさんと、作詞家:荒木とよひさ さんの名コンビで作られた「つぐない、愛人、涙の条件、時の流れに身を任せ、分かれの予感」は、ご本人のヒット曲を収めたものだが、それ以外の曲は、真夏の果実(作詞作曲:桑田佳祐)とか 人生色々(作曲:浜口庫之助)などのカバーが収録されており、彼女の歌唱力の幅の広さを実感する事が出来る。あと、例のヒット曲「空港」は、作曲:猪俣公章さんと 作詞:山上路夫さんの作品。さらに、おまけで、李香蘭(本名旧姓 山口淑子)が歌った「何日君再来」の日本語バージョンが収められて、新旧入り乱れて広いファン層を意識したCDになっている。テレサ・テンさんは亡くなられて既に15年経っており、CDの種類も数量も少なくなっている。1枚選ぶとしたら、やはり「何日君再来」の収められているこちらがよい。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21804&app=WordPdf
補足 先月、クレージーキャッツのメンバーで、「ガチョーン」で一世を風靡した谷啓さんが亡くなられた。犬塚 弘さんは、置いていかれたような気持ちと語っておられた。ご冥福を祈りたい。
補足 モノ:モノフォニックの略で、モノーラルの略ではない。対比する言葉が違い、モノフォニックに対してステレオフォニック、モノーラルに対してバイノーラルとなる。モノーラルとステレオを対比して使うのは間違いである。