2010/10/22

逸脱する病院ビジネス

  リーマンショックの3年ぐらい前だったと思うが、病院の経営状態は急に悪くなっていた。医療費節減の為の薬価引き下げで、病院の倒産が増えていたのである。その他にも整理統合、合併、閉鎖、経営交代などで新聞を賑わしていた時期で、それは、日本の医療がみしみしと音を発てて崩壊にむかっていく予兆でもあった。病院の半数以上が赤字になったと言われ、我々納入業者に対して、「まけてくれ、まけてくれ」と頭を下げて頼み込む「用度課の連中の姿」を思い出す。今、11部屋あるオペ室の内5室使えない状態だとか、オペ用の手袋や薬剤が足りなくなっているとか、如何に苦しい状況か(オペ室の状況は誰でも心配する)を言い訳のように説明をして、費用を削ってほしいと頼むのである。いくら頼まれても、俺達には関係ない話だと、怒鳴り返すしかなかった。

  現場では、医者がメーカーからバックリベートを貰って私服を肥やしている。勿論そうでない医者もいる。例えば、体に埋め込む医療用具の会社から頼まれると、医者は、体に埋め込む必要のない人へにも、「いや、できれば埋め込んでおいた方が安心ですよ」と勧めるわけである。本人は出来れば避けたいが、回りの家族は無責任にも、先生のおっしゃるとおりにするよう勧めたりする。体へ埋め込む為には、手術も必要だし、一度埋め込むと、電池交換とかリプレースとか一生その会社の製品を使うことになる。この類は、病院も儲かり、医者個人もポッポできる。加えて、病院へ将来継続的に通わざる終えないように治療することは、病院経営の安定化を図るとして重要視されている。そういうのを20年ぐらい、まじかに見てくると、病院にお世話になるときは、必ず知り合いの先生に紹介してもらおうと思うわけである。

 医者は、知合いの先生の紹介状を持った患者や、医薬品や医療用具を扱う業者の患者を、一般外来患者とは別の扱いをする。医者にとっては、同業者もしくは関係者は身近な存在なので、神経を使うのである。一方で、一般外来はその限りではない。つまり、患者は診療される前から選別されランキングが付けられる。ランキングの上位の患者は何かと神経を注がれるが、そうでない場合は、金儲けの道具にされる可能性もある。そして、それによって一般患者は泣き寝入りをせざるおえない事態になることも少なくない。しかし、本来、医者は悪い噂が広がることを極力嫌う。経歴に傷が付くとか、学会での立場もあるので、神経を尖らせる。ところが、絶対に勝てる相手には強く出る。そういう歴史的によどんだ空気の中で、きめ細かく医者としての「個人のソロバンを弾いて採算を計算」して診療は行われていく。

 病院の中で行われる、主たる医療行為は、全て診療報酬制度によって点数に変換され、国に請求されている。それは、診療品質の違いと点数の多い少ないは因果関係はない。つまり、経験豊かな先生も、駆け出しの先生も、ちゃんと説明をしてくれる先生も、知らん振りをする先生も、かかる診療報酬は一定なのである。さらにそれを対極側まで推し進めて考えれば、独占的に診療点数加算も可能なのである。患者は一人でも、担当医として「自信を持って多くの病名」をつけさえすれば、いくらでも検査はできるし、手術も出来る。それに伴い点数はどんどん上がることになる。つまり、まじめに患者の為を考えて、控えめで適正な診療に抑えたり、最小限度の診療で済ませるよう工夫をしてきた良心的な病院ほど、早く倒産したとか、あるいは倒産する可能性があったといえるのだ。病院の経営方針が変わると言うことは、診療報酬の解釈を調整するという事でもある。

  一方、視点を変えると、最近は、クリ二カルパス通りに治療を行えば、最も効率のよい治療が行えるとして、それに全診療科をあげて取り組む病院が多い。赤字を抜け出すためには、必らず乗り越えなければ成らない条件でもある。簡単に言えば、「標準化された治療システムを構築し、それにしたがって画一的な仕事にする。特別に手間をかけたり、余計なことはしない」治療で、診療保険点数にないことは一切やらない。それが嫌なら他を当たるしかない。まあ、「所詮他人の体なので、統一的にやるべき事をやって、治ればよし、治らなければしょうがない」という考え方になる。これも、裏を返せば、「結局、我々被保険者を含めた社会全体で望んでいた」ことなのである。口先ではあくまで立派な事を言いつつ、お金を出ししぶるからである。その社会的背景から、病院は、その考えに沿った方向へ変貌を遂げようとしてきた。その中身は、不払い切捨て、病弱者切捨て、不治病切捨て、と、ごく自然で、一般的な企業の生産システム並みの仕組みを構築するようになってきたのである。今後は、さらにシビアになると考えられる。

 人は、元気なうちは医療費を無駄なお金のように考えているが、大病をしたら、もっと丁寧に治療をして欲しいと思うに違いない。今まで病気などをした事がない人は、昔の概念で病院を訪れて、身を任せることは、少しためらった方がよい。少なくとも、入院をする前には、それなりに病院や医者を調べておくべきである。ま、認識の甘さを捨ててもらうために、今日は、医療業界関連としては、珍しくまともで、それらをよく取材してあると思える本を見つけた。このような取材を通して、業界の内部を垣間見るのも、氷山の一角とはいえ参考になると思う。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21812&app=WordPdf

補足 理論派で学者タイプの先生もいれば、手術の大好きな先生もいる。普段患者と話すことは時間の無駄という先生もいるし、仕事熱心な先生もいる。また、リスクを避けたがる先生もいて、これらはある程度、端から見ていても判断はできる。しかし、治せる先生と治せない先生の区別は難しい。