2010/11/15

最近の話題を追って

 少ない情報からでも、不条理な発言には苛立ちを覚える。そもそも、事件の背景を調べたり、法的根拠と照合しながら、あるべき姿としての持論を展開するようになると、誰の言葉でも1つ1つに敏感に反応するようになる。それにしても、官房長官が、直接テレビの画面を通して持論を展開する我々に向かって誹謗中傷をするとは思わなかったが、それが彼の防御本能の証かもしれないし、単に彼が未熟者だったのかもしれない。ただ、彼の多くの発言への審判は我々国民の手の中にある。しかし、判断力のない者を選んだ我々にも責任がある。彼は、民主党だが、元は社会党の出身であるために、国と国の関係やグローバルな戦略を手がけるには未熟である。加えて、かつて元小沢幹事長が、今の民主党には政権担当能力がないと内部告発をしたが、全くそのとおりであった。

 今回の「映像流出事件」に関して、広範囲で様々な意見が出て興味深かったが、映像を流出させた保安官を、あたかも犯罪者のような報道をしておきながら、「政府が国家機密と定めた」その映像を、事あるごとに番組タイトルにまで使い、何度も何度も放送するマスコミ(放送局全社)の無責任さには閉口した。自分達は、国民が渇望する取材を何も達成出来なかったにもかかわらず、映像流出後はこれ幸いと、全ての責任を保安官に委ね、その情報(映像)のパクリで飯を食おうとする姿はジャーナリズムの風下にも置けない恥ずべき行為である。また、過度な報道が中国への刺激を増幅させていることに早く気が付くべきであった。こちらの方が責任は重い。本来の正義と国益の両立を願うならば、その映像は適度に自粛すべきだし、あからさまな部分だけを編集した映像を頻繁に流すべきではない。

 結論から言えば、保安官のしたことは 「動機としては正しいが、手段が悪かった」と思い気持ちを落ち着かせるしかない。だからと言って、手段が悪いと責めているわけではない。周囲の同僚を巻き込まないように配慮するとか、家族の将来に及ぶ名誉棄損等を考えていたならば、その時点で手段の選択肢は、無かったと思うからだ。しかし、自ら出頭して「その意図をちゃんと説明をする計画が最初から織り込んであった」とするならば、もっと優位にゲームを進める方法が模索できたのではないだろうか。そこに、美学にも似た、敗因の要素とも言うべき脆さが、隠れているような気がする。ただ、海上保安官であり国家公務員の行為ということで、事件を必要以上に拡大解釈する専門家もいるが、その前に「人としての心情や危機管理としての動機」を重視して評価すべきではないだろうか。今後も見守りたい。

 今回の事件は、我々国民にも責任がある。国境に対しての認識が低いのが主たる原因とも言えそうだが、日中関係の歴史的認識にも欠落がある。戦時中、中国に対して日本陸軍が何をしてきたか、そこを紐解くと、満州事変、南京虐殺にはじまり、横暴な支那を懲らしめよと言って中国全土を侵略し、「人として恥ずべき行為」も行ってきた。日本は勝手にアメリカに負けて敗戦後は生まれ変わったが、一方の中国は侵略された時代から「怒りが収まらない」ままである。65年経っても中国は、今だ心情的には停戦中のままといっても差し支えない。そして、日本はいつどのような形で過去の反撃をされても「文句が言えないほど無防備で脆弱」なのである。つまり今、日本を取り巻く周囲の環境は、戦前より力学的に不利になっている。だから、何事にも注意深く対応していなければならない。なぜなら、人の心の中に植えつけられた憎しみは、簡単には消えないからだ。

 補足1:海上保安本部に「海上保安官をかばってほしい」といった意見が寄せられていることについて、官房長官は、「国民の過半数が、そのように思っているとはまったく思わない。国民は信頼できる捜査を求めており、事件が起こればしかるべき処分をしてもらいたいという、健全な国民が圧倒的多数だと信じている」と述べた。
 確かに、海上保安官の行動としては、問題があるかもしれないが 「事件の情報開示行為として、許そうではないかと熟慮している人達」も多い、あるいは、「よくぞ見せてくれたと賛辞を送る人達」も少なくない。その人達に向かって、そう思う「おまえ等は健全な国民ではない」と誹謗中傷している。
 恐らく、流出する前に映像を見たいですかと聞いたら、ほぼ100%に近い人達が見たいと答えるに違いない。これが「健全な国民」である。しかし、観た後その映像に慣れてしまったら、法に違反してまで見せたのは問題だと言う人が必ず出る。また、優等生のように法律に反するからと言う理由だけで、絶対に許せない行為だったと言う人も出る。これも「健全な国民」なのである。つまり、健全な国民であればあるほど、多様な考えを備え、いつも健全な国民であろうと努力するのである。

 補足2:風下にも置けない:風上おろか風下にも置けないくらい臭くて、恥ずかしい立場だと言う意味である。

 補足3: 11月14日18:00 時点での情報を元にまとめた。