2010/11/09

ディスカバリー4-b

  それでも、当時のコンピュータは今のとは違い、自分でプログラムを作って動かすことに重点が置かれていた。そうしなければ、その価値を引き出せないと考えたからで、コンピュータを所有している人に対して、何に使っているのか?当時は誰でも興味の沸く話であった。きっと、難しい事をしているに違いないと考えたからである。 そんな、今とは違った昔の感覚を思い出しながら、この続きを読んでもらいたいが、科学技術計算に向いたといわれるFORTRANには、絵を描く機能など存在せず、プログラムは、ひたすら高速で答えを求める手段でしかなかったのである。ゆえに、CRTの画面をコマンドラインからグラフィックスモードへ切り替えるなんてこと自体が新しいことであった。俺流で言うところの、「うーむ、なるほど」っていう感じだったのである。ということで、今日の出力先宣言は PLOTTER IS 705 である。

 さて、2軒目に就職して、まだ駆け出しだった頃(26~27歳のころだったと思う)、YHPの人達と一緒に仕事をしたことがあって、その時に、まだ日本に入って間もない自動計測システム(販売前)を特別に見せてもらった。そこには、オールインワンで大き目のキーボード台の付いた、テレビのような画面と、その脇で8色のペンを自由に使い分けてデーター結果を描く装置があった。コンピュータは、様々な計測機器とHP-IBで接続されていて、データーを定期的に取得してようであった。プロッタは、データーを取得するとその都度ペンを取り代えてデーターを描いていた。縦横軸のスケールの文字もローマン体で綺麗に描かれていたのには驚いた。 そんな、器用にアームとペンが動いて文字まで描いているさまを見ると、いつかプロッタを自由に使いこなしてみたいと、憧れるようになるものである。当時、その業務用のプロッタは、A3サイズの8色ペンで、決して個人で購入できる価格ではなかった(150~180万円ぐらい)。
  
 それでも、何の為に使うのか特定もせず購入したのが、今日紹介するHP-7470A(54万円)である。HP-GLを参照しながらペンを動かしてみる。個人で大量の被測定物を処理することはないので、別の事を考える。理屈的には「理論や数式を丸呑み」して頭に叩き込むより、少々手間はかかるけれど、視覚的にその現象を把握することが理解を容易にするのではないか、と思ったのである。たとえば、俗っぽい話で例えると、スピーカ・キャビネットの容積Vを求める計算式があったとする。そこそこ複雑な計算式で、幾つかの定数とFc(=キャビネット時のf0)で容積Vは決まる訳だが、逆にキャビネットの容積Vを固定し、その定数であるコーン紙のm0(等価質量)を変えて、対周波数として振幅特性をプロッタに描かせてみるのである。m0をある範囲で動かしてみると、別の現象が分かるのである。そうやって、片っ端からスピーカに関する数式を扱ってみると、「おおっと、そういうことなのか」と、全体の概念を理解するのが早く次々と興味を引いたのである。ネットワーク回路設計においても、コンデンサとコイルの等価容量値から様々にフィルターの特性を描かせることも容易で、すこぶる便利であった。

 さらに手法を発展させ、NTSCフォーマットのRGB信号から、色差信号、IQ信号、ベクトル、バーストの振幅と位相などを同時に生成し描かせてみると、またまた新たな発見があるわけで。映像信号は細かな数式と定数がふんだんに出てくる。一見は難しそうだが、定数同士の関連性が強い為に、数式だけでも理屈を把握出来そうだが、実際にグラフにしてみると案外全体の理解も早く深められるし、このNTSC自体が大変よく考えられている事が分かる。早い話、NTSCの仕組みの面白さがすぐに分かってくるのである。つまり、数学の得意な人にとっては、どうって事無いことでも、そうでない我々として、コンピュータとプロッターを使いこなすことによって、一歩先を進む事が出来るわけで、当時は複雑な数式であれば、ついついプログラムしてプロッターに描かせるということで遊んだ。本来、もっと幅広い知識と教養があれば、さらに面白い利用方法が可能になったに違いない。いつの時代も、コンピュータというものは、使う人達のアイデアによって価値が決まるのである。ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21781&app=WordPdf

 補足1 YHP 当時の横河電機とHPの合弁会社である横河・ヒューレットパッカード㈱のこと。

 補足2 HP-GL グラフィック ランゲジーの略で、プロッターに線や点、文字などの絵を描く為に使用するHP独自のコマンド体系。後々、他社のプロッターも、ほぼ100%HP-GLをサポートしている。

 補足3 輸入品で一番苦労するのが取扱説明書の言語。しかし、同じ様な製品を販売した日本の電気会社の説明書より、「はるかにHPの英語の説明書の方が分かりやすかった」のは何故か。