オッズは、競走馬の人気を表すバロメーターではあるが、ファンがそれぞれに独自の方法で馬の能力を割り出した結果でもある。勝馬を的中させて利益を得る行為は、一般の人達にとってみると賭博のように見えるかもしれないが、実は巧妙に計画された「興行」に潜むイベントなのである。ただ、全てのレースが興行とは言い切れない、そこを見抜くのが難しいのである。この興行の概念の1つには、芸術的ともいえる磨かれた技が活かされている事が多い。これは、モンキー乗りと呼ばれる、お尻を鞍から高く上げる乗り方に見る事が出来る。ファンは、この姿を眺めてレース自体が命がけの勝負のように感じるわけである。これは、演出の1つである。
コースは様々な様相を呈し、得意、不得意のない能力が要求されるよう設計されている。競争結果から眺めてみると、例えば、「東京競馬の2000mの8枠は距離的にも不利なはず」とかよく言われるが、確かに過去のデーターではその傾向は若干あるものの、絶対的な統計結果にはなりえていない。このようなことは、中山、京都、阪神、名古屋、新潟、函館、小倉等でも同じ事が言える。一方で、興行主である農林水産省は、時々馬に対する能力評価の精度の高さをファンに見せ付ける事がある。これが、いわゆるハンデ戦である。能力の異なる馬に、それぞれ異なる負荷を掛けて走らせるのである。能力の高い馬には重い錘をのせ、能力の無い馬には錘をのせない、この結果、ゴールでは各馬が横一直線に並び、鼻差、首差でゴールするのである。この神業も演出である。
それなのに、競馬に夢をかける人達は跡を絶たない。かく言う、私もはまった事がある。それもこれも引きづりこまれるきっかけがあった。それが今日紹介する30年昔の思い出の1つである。ある日、編集局長から「客が2名来るから、相手をしてやってくれ」と言われた。ええっつ、私っすか?と問いただすと、局長は「自分が聞いても分からないから」とはぐらかされた。編集局長は、ソニーの大賀さんや森園さんとも懇意にしているぐらいだったので、きっと難しい事を言う人が来るに違いないと考えていたのだが、想定に反して、いたって楽しそうでリッチそうなおっさん2名であった。
2人は、終始笑みを浮かべながら、意外にも馬の性質、コースの妙味、レースの展開まで、様々にレクチャーしてくれた。結局要望は、自分達の30年のノウハウをポケットコンピュータのプログラムにして欲しいということだった。今から思えば、簡単なプログラムなのだが、当時は結構辛かった。会社から帰って夜時間のある時に考えて、HP-85で約1ヶ月ほどかかった記憶がある。そのプログラムを検証する為に、競馬四季報の東京と中山競馬のみ3年分試したが、これには3ヶ月掛かかっている。結果は、結構いい勝率を叩き出したが、収支としては118%程度でしかなかった。そのプログラムを移植したのが、今日紹介するポケットコンピュータHP-71Bである。プログラムが出来上がって、残念そうに説明すると、それでも2人は、十分思惑があったようで「賭け方と買い方に妙味」があると訳の分からない話をしながら喜んでいた。私には、移植に使ったこのHP-71B 2式と関連アクセサリー全てを残してくれた。ROM、HP-IL/HP-IB IF、テープドライブなど占めて70万円程度だったと思う。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21926&app=WordPdf
補足1:今回は前編で、この話には続きがある。
補足2:当時の国産のポケットコンピュータには、ユーザー側で定義できる函数式は設定できなかったが、この科学技術計算を得意とするHP-71Bは可能だった。
この函数式とは、そのレースの競争馬の数を入れると、任意の馬が何枠に入っているかを計算し、暫定の結果から同じ枠組の結果を省き次を提示する。
つまり、22頭建の8番目の馬は3枠にいるが、16頭建の9番目の馬は5枠にいる。これを函数として扱う。これが出来ないと連勝複式の買目が出ない。