2011/11/15

栃尾の油揚げ

    今頃の夕食のおかずは、やはり「魚の煮付けがいいな」と思うことが多い。丁度、道すがりに1軒で「仕出し屋、魚屋、惣菜屋」を兼ねたお店があって、そこでは、金目鯛やめばるの煮付けだとか、秋刀魚の塩焼き、ぶりの照り焼き等が店頭に並んでいる。大根やごぼうなども一緒に煮つけてあり、容器を覘くと厚焼卵も添えられていて、時折、魚屋の仕事とは一味違った嗜好を感じる。味付けも、いかにも仕出し屋職人風で技巧的な薄味仕上げになっていて大変美味しい。活きの良い魚もたくさんあるが、時々煮付けを買って帰る。店のおやじとも言葉を交わすようになって、暇そうな時には色々話を聞かせてもらう。

 店のおやじといっても、ひょっとしたら私よりお若いかもしれないので、「お店の彼」と呼ぶことにしたいが、彼が言うには、父親は「揚げ豆腐なんかを一緒に煮付けに入れてましてね、酒の肴に丁度いいらしいんですよ。そんな折には、ご飯は食べないでしょ。だから、あくまでも薄味仕立てでね、魚の出汁が引き立つように煮付けるんです。そんな親を見てきたから、店の煮付けは年寄り好みの薄味っていうところですね」。確かに、この煮付けでご飯を何杯も戴ける感じではない。むしろそのまま戴いて、後でお新香、しじみの赤だしとご飯を戴くのがいいと思っている。

 先々日も、行きつけのパスタ屋で「めばるの水煮が乗った」トマト味のパスタを戴いたけど、めばるがトマトやオリーブオイルとも相性がよく、「ああ、美味しいなあ」と半ば感動したばかりで、味付けに特別な工夫をしなくても、美味しい組合せは無限にありそうだと感じたばかりである。そんなこともあって、彼の話を聞いていると、徐々に自分でも創作してみたくなるもので、いつか材料をそろえたいと考えていた。まあ、金目鯛と、揚げ豆腐、大根、ごぼう等を一緒に煮付けて、鍋一つで料理する便利さもある。

  鱗を取り除いてもらった金目鯛を用意し、その切り身の下に昆布を敷き、アルカリイオン水を張り、砂糖、日本酒と醤油、ごぼう、椎茸、乾燥ホタテの貝柱、生姜と「栃尾の油揚げ」を使って煮付けてみた。この「栃尾の油揚げ」は、知る人ぞ知る油揚げで、どっぷりと出汁醤油に漬けるのではなく、一口サイズに裁断した後、下半分ぐらいに味がつくように鍋の中に配置する。味付けが濃いと素材の持つ美味しさが分かりにくいので、半分味付けして、半分は素材の美味しさを楽しむことにする。新潟の方では、「栃尾の油揚げ」を金目鯛と一緒に煮付けて食べる習慣はないかもしれないが、これは美味しいと思う。

 どのような食品でも、伝統的で有名な産地と言われるところには、それを生産するための環境が整っている事が多い。栃尾には、大豆と美味しい水があるに違いない。へー、そんなに美味しいかあ?と疑問を持たれるかもしれないのだが、確かに、現代人は油揚げの美味しさなるものを知らずに育ってしまうこともあって、分かりにくいかもしれないが、本来の美味しさは、風味であったり、菜種油の薫りであったりする。しかし、日本人として生まれてきたなら、どこかでDNAに「油揚げの美味しさを感じる配列」が書き込まれているので、歳を重ねれば美味しさが分かるようになる筈である。そこで、まず、最初にこの「栃尾の油揚げ」の美味しさを楽しむには、オーブンで表面をカリカリに焼いて、大根や生姜をすりおろし、特選の醤油(決め手になる)で戴いてみるとよい。
ではこちら
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