2012/03/06

オーディオマニア24


  前回は、試作パッシブラジエータのスピーカを紹介したので、その続きというか、完成している3ウエイの方をみっちり紹介しようと思って、当時の資料を探していたら、懐かしい写真や違う資料ばかり出て来て、つい寒い部屋の奥に座り込んで、時間が過ぎるのを忘れてしまった。写真は、当時の記憶を整理するには、大いに役に立つことがある。中でも、この古い写真を見たことのある人は、結構いらっしゃるのではないかと思って、今日はこの1枚を登場させることにした。個人的に当時の増刊などは残していないので、比較はできないが、同じカットでも少し違うのが増刊表紙に使われていたと思う。

 ちょうど1977~83年頃はスピーカの人気が高く、年末増刊の企画としてスピーカ・ユニットの測定とか、スピーカ・システムの測定をテーマに、「無響室でのデータ」をたくさん載せることでいつもより部数を伸ばすことが出来た。たくさん売れることは、多くの人たちの支持を得るということで、編集者にとって、たいへん気分の良い話だったのだが、無響室での作業は、腰を痛めたりすることも多かった。無響室は一切の音の反射を許していないので、上下左右前後が大きな楔の様な吸音材で囲まれている。人はその空中に張れた不安定な格子状のワイヤーの上を移動しなければならない。ブックシェルフ程度の大きさならまだしも、数人でフロアー形を中央にある測定台へセットするのは難儀だった。

 あと、少々マニアックな話になってしまうのだが、本来ならば、メーカー1社に決めて無響室を使わせてもらうと新旧のデーターの比較等もできて良いのだが、会社の上層部のお付き合いだとか、無響室の利用状況等もあって、その度に使う無響室が変わってしまうことも多かった。その様な事を繰り返していると、現場では分かりにくいが、データーを持ち帰って整理しながら気がつくことがある。我々も「必ず毎回同じスピーカを測定の仲間に入れておく」、ということもあって現実味が増すのだが、無響室によって50Hz以下の低域特性が大きく異なるのである。読者の方には、やっぱりそうかと納得される方も多いと思うが、そういうことが分かってくると、都内では芝浦にあるソニーの無響室がいいとか、西なら松下電器産業の無響室がいいとか、それぞれ無響室の癖を把握して、システム全体の測定にするか、ウーファか、スコーカか、あるいはトゥイータかなど「特集の企画」を変えるのである。

 今日の写真は、測定したスピーカ・システムを一同に並べてみたところで、場所は松下電器産業社内である。スピーカは測定結果だけで云々できる機器ではないが、逆に測定を担当すると、色々な事が分かってきて面白い。例えばB&Kのマイクロフォンの性能限界だとか、SPユニットの配置によるf特の変化だとか、キャビネットの回析現象や縦横奥行き比といった単純な寸法による定在波の影響もデーターに反映されるのである。そうやって、現場での経験を重ねることで少しづつ分かってきて、原稿を作る価値が出てくるのである。それも、人に何かを伝える面白さなのかもしれないのである。

  さて、写真の中の、「必ず毎回同じスピーカを測定の仲間に入れておく」には、やはり、編集部のお気に入りのYAMAHAのNS-1000M と Lo-DのHS-400 が紛れ込んでいる。あと、この時には、数種類のJBLのシステムが入っていて、プロフェッショナル好きな方でもかなり参考になった筈である。この写真の中から今でも半分の19機種ぐらいメーカー名が分かれば、まだ記憶が確かと言えそうだ。ということで、たわいもない古い写真の紹介ではあるが、このような話を前振りとして1発間に入れておくと、その続きの「完成している3ウエイの方をみっちり」紹介しやすくなるというシナリオなのである。
ではこちら。
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211106&app=WordPdf

補足1:増刊は売れて部数が伸びたとしても、特別に儲かるわけではない。誇りにしたり面白がるのは編集長と企画担当の編集屋だけである。まず、刊行に当たっては、企画の段階で先に広告収入が決まる。その広告収入の案配によって「定価」を決めるのである。それこそ、広告がたくさん入ると、定価を下げて部数を伸ばし、他社競争に勝ちたいからである。ま、全て当時の話ではあるが。
補足2:私は1988年に退社したが、ラジオ技術社は1993年に無くなっている。「ラジオ技術本誌」は会社が変わっても、引き続き残った少メンバーで継続刊行されたが、現在は販売方法が変わったのか書店から姿を消している。
補足3:当時1976年~1988年までの事は、古い話なので忘れないうちに書き残しておこうと思う。今後は、時々突発的にこのような「時代遅れの話」が出るかもしれないがお許しいただきたい。