舶来製品の寸法を表わすときに、よくインチと言う単位が使われた。そうそう、昔ではテレビの対角寸法を表現するときにも使われていて、奥様方でも電気屋でそのインチを使って店員と話している姿を目にしたことがある。 1インチ=25.4mmになる。ただし、いつもインチとセンチを交互に換算しなくても、何となく映像の専門筋が使う単位として漠然と受け入れられてきたのである。今日は、そんなたわいもない「インチ」の話になる。
今から34年ほど前、編集屋になりたての頃は、古いことを知らないことで苦労していた。だから、昔の事は、社内の棚に積んである本誌のバックナンバーをみながら学ぶしかなかった。ある日、フィリップスの1+1/4インチのPbOを使った小型4管式スタジオカメラが日本テレビ放送網に採用されたという取材記事を見つけた。1+1/4インチ4管式でも小型かって、もちろん従来の2インチより小型なのだが、それでも内部の巨大なプリズムの写真を見て驚いたのを覚えている。対角ではあるが31.75mm と撮像部もまだ巨大である(標準カメラは、このサイズがしばらく続いた)。これが、ネジよりも先にインチを実感した時の事である。その頃は、NHK技研の取材などでも、まだ2インチVTR(幅50.8mmのテープ)を使って映像を扱っていたのを覚えているし、そう古めかしい感じは受けなかったが、あれもインチ、これもインチと、インチがはびこる世界は広かったという実感がある。
実は、スピーカ・ユニットの口径も、マイクロフォンの口径も本来のインチで表わされた時代は長かった。今でも、そういう単位を使う年配者は多いが、スピーカで15インチとか言われても、マイクロフォンで1/2インチと言われても一般的にはピンと来ない。やはり、38cm とか 12.7mm と言われた方が分かりやすい。その理由は、JIS(日本工業規格)が1991年から国際単位系に全面準拠となったためである。それを契機に、インチは国際単位から外され、国内では「型」と言う表現に統一されている。あくまでおおよそであるが、1尺=10寸=12型=0.3m となり、一寸法師より親指(1型)人形は小さいことになる。
今日紹介するPDF写真は、段ボールの中から出てきたオープン・リールの1インチ・テープである(テープは、2、1、3/4、1/2インチまでインチ表記)。外枠のプラスティックも重たくしっかり作られていて、開くと当時の空気が溢れ出て、思わず懐かしい薫りにつつまれてしまった。恐らく、今でも古い映像の専門筋の人達の間で「インチ」といえば、実は、このテープのことか、もしくはそれを使った世界標準的なヘリカルのフォーマット(SMPTE TYPE C)で記録再生できるVTR機材を指すのである。
今日のPDF写真のテープは、当時、別冊MOVEmentで業務用および放送業務用の「3管式ビデオカメラの測定」をした後の画質比較に、このテープを使っていたのである。その様子の一部を、以前のディスカバリー3のPDFで紹介しているが、当時の放送業務用ビデオカメラで撮影した画像も多く収録されている。池上通信機のHL-83、HL-79D、HL-95、ソニーのBVP-330、BVP-3(サチコン)、BVP-30 等もある。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211104&app=WordPdf
補足1:PbO=フィリップスが開発し、製造特許を所有しているプランビコンのこと。当時の放送業務用カメラの殆どに使われいた。国内では、つい最近まで松下電子工業がライセンス生産をして各メーカーに供給していた。PbOの特徴はハイキーな画像やハイライトに強いことだが、RchはPbSでめっぽうハイライトに弱い。昔のテレビ番組で赤い尾を引くコメットテール現象が多かったのはそのためである。
補足2:上の写真は、昭和53年に技研公開で見た8ヘッド超小型VTR。テープの幅、走行速度共に従来の1/2で、面密度が従来の4倍ながら従来のハイバンドと同等の画質が得られる。オープンリールだがヘリカルではない。特徴として、リング型8ヘッドドラムは、冶具なしで短時間で交換できる。重量は12kgと超軽量で、まさに野外撮影向きという。
補足3:ディスカバリー3のPDFは、こちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21234&app=WordPdf