2012/03/31

虎屋の羊羹「おもかげ」


  最近、なにやら昭和の「復活」を売りにした商品が多い。かつてのバブル時期に売上げを伸ばした飲料や食品とか、中高年が若い頃親しんだマンガの主人公とか、憧れて欲しかった車種とか、よく聴いたスキャットとか、様々な分野で昭和の色を復活させようとしている。活気のあった時代を懐かしがる気運が広がっているようだ。歌謡曲のような流しものならまだしも、その時代を懐かしがる中高年に、どうしてもお金を使わせたいのかもしれない。

  財布の紐が固くなっている時代だからこそ、何か紐が緩むきっかけを作ろうと努力している。紐の前に気を緩めないといけないので、「昭和の思い出という琴線に触れようとしている」のである。つまり、新たな企画で商品化された製品を宣伝しても、価値観が違ったり、美学やデザイン性が既に固定化されている人たちを満足させるには、難しいと思ったに違いない。そこで、一度昭和の時代に立ち戻って心を揺さぶり、そこから再出発させる必要があると判断したのである。しかし、当時とまったく同じ手法や技術で作られているわけでもなく、今の時流に適した最新の技術が盛り込まれている点が優れている。そんな復活商品を横目にしながら、自分としては特別執着のあるものは無いけれど、何か1つと言われれば、うーむ、「小豆の餡子とか、饅頭、最中、羊羹」だよなと思うのである。

     ・・・・「やっぱ、それかよ!」と思われるかもしれないが、小豆と言うのは、おはぎとか大判焼き、あるいは羊羹として幼い時から口にしていて、自分の記憶の中では、半世紀以上の長い歴史を共に歩んできた食品である。井村屋のジュースの素より古いし、丸美屋ののりたまや、牛肉すき焼きふりかけよりも古く、もちろんテレビは白黒で、赤胴鈴之助や鞍馬天狗と同じぐらい身近な食品だったのである。だから、母だけではない、祖母のことまでも思い出せる食品なのである。そうそう、ちょうど右の写真を撮ってもらった時代からの記憶だと思うのである。

 さて、リードが長くなりすぎたが、今日の話は1言である。虎屋の羊羹を買って来たので報告したい。この羊羹は、7種類ほど製造販売されているが50gの少量包装は5種類ある。興味があれば、5種類を食べ比べてみてほしいが、それなりの驚きと新しい発見があると思う。その1つが「おもかげ」である。これを口にすると、ばあちゃんの作ってくれた餡子の味が蘇る筈である。しばらくの間、「あ~ぁ・・・と回転しながら、タイムトンネルに引き込まれて50年前に遡っていく」 感じなのである。ただ、それだけだけど、しばし懐かしさが襲ってきて胸を熱くしてしまった。

  もっと、熱くなりたい人の為に虎屋では、和菓子のオートクチュールを受注してくれる。使い道などの要望を受け、素材から形・色・菓銘に至るまで、お客と一緒に考え、「その客だけの和菓子」を作ってくれるというものである。東京赤坂本店と京都一条店でのみの受付だが、お茶会やお祝い事等には最高だ。それ以外にも、身近な使い道として、「いつ、今回で最後になるかもしれない父や母の誕生日に、懐かしい50~60年前のイメージの饅頭、羊羹、最中等をオートクチュールで作ってもらう」のはどうだろう。ケーキよりも、はるかに喜ばれるに違いないし、また、何度も、何度も、当時の同じ話が聴けるかもしれない。きっと、親孝行になる筈だ。価格は、通常の120%~200%程度とのこと。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211113&app=WordPdf

補足:今日紹介している羊羹は、1時間かけて練り上げたものを、多層構造で遮断性に優れた中袋に密閉封入していて、未開封では刻印された賞味期限よりさらに1年間は美味しくいただけるそうだ。羊羹は、元々大量の砂糖を加熱して作られているので、開封後でも表面に白く砂糖が固まっても腐ることはない。むしろそのほうが美味しい筈である。