2012/06/05

西武新宿駅


  階段を上がると、そこには自動改札がある。つい先ほど、京王線新宿駅から足早に歩いてきた。いつもより電車が遅れてしまい、信号のタイミングのヅレも重なって、今日は、乗り遅れるかもしれないようだ。おまけに、これから乗車しようとする電車から降りたお客に、押し戻されそうになりながら、忍者の様な格好で階段を上がってきたのである。改札を抜け、やっとの思いでホームに出る頃、いつもの声が聞こえてきた「3番線の急行は、6時54分発の本川越行きです。間もなく発車です。お早めにご乗車ください」。・・・おーまだ間に合う、ありがたい。その言葉に背中を押される様に6000系の最後尾の車両になだれ込む。もう、乗り遅れたら次の急行でもいいやと思いかねない状態で、朝からエネルギーを使い果たしてしまった。それでも、遅れかけた私に向かって掛けられた言葉に力を借りて、踏ん張る事が出来たのである。

  もちろん、そんな遅れそうな日ばかりではない。普段は、早くから3番線のホームで急行を待っている。その様な時間的な余裕があれば、途中、階段で押し戻されそうになることもなく、全てが上手くいき、乗車してからのアナウンスも、「この急行は、6時54分発の本川越行きです。あと1分程お待ちください」と上等な客扱いになるのである。そうやって、ぽっつと誰もいない車両に一人隅に座って、発車を待っているのである。

  毎日ではないにしても、かれこれ1年半、時々遅れそうに改札を通過すると、そんなアナウンスにも似た「後押し」する言葉に励まされながら、今まで、なんとか乗り遅れずに来れたのである。そこで、はたと考えた。良く考えると、その声は、どう考えても舎内のスピーカを通った声ではない「生の声」である。ただ、ホームに響き渡るような、よく通る声なので、時間のあいた駅員さんかもしれない。丁度持ち場の仕事が終わって、少し余裕のある時間に、声を出す練習を兼ねた関係者かもしれない。今までは、そんな西武鉄道の裏事情を確認する必要もなかったし、そんな言葉を掛けてくれるのは、ひょっとしたら、時間に余裕のある偉い駅長さんだったりするので、はなから確認する気持ちは無かったからだ。

 一度その声の主を、確認しておきたいと思いはじめて、遅れて改札を抜けると声は聞こえるのだが、電車の方向に目が向いているので確認しずらい。左側から聞こえるのでそちらを向いても、何人もの男の人が時間を潰しているようなので、見分けがつきにくかったのである。今度こそチャンスがあったら、しっかりチェックしようと思いながら何週間も過ぎたころ、ある日、何気なく左を向いて前に進んでいると、なんと、デイバッグを背負った「年配のおっさん」が私の方を向いて声を掛けてくれていたのである。「3番線の急行は、6時54分発の本川越行きです。間もなく発車です。お早めにご乗車ください」。その言葉に、。「うーむ、そうだったのか」と、つい恐縮して、何度も何度も頭を下げてしまったのである。それもこれも、頭っから駅員さんの格好をしていなければいけないと決めつけていたから、発見が遅れたのかもしれない。

  そんな、6時54分前なら、間違いなく声を掛けられるチャンスがある。やっぱり、西武鉄道はこういう人を大切にしてほしいものだ。今日の写真は、プライバシーの関係からその声の主ではないが、6000系が3番線へ入線してくる、いつもの風景である。
ではこちら
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