2012/10/09

オーディオマニア29


  人は興味のあることについては、日常的に改良を行うとか工夫するのが好きである。特に継続できる趣味のオーディオでは、細かいパーツに分けて検討し、改良とか交換することができる。それによって、低予算でアップグレードすることも可能になるので、それを楽しみにする場合も多い。黎明期から続く歴史的背景を持ったセオリーで、自分の考える「理想を実現するために、それにそぐわないものは交換すれば」よいという考え方である。それを何度も繰り返しているうちに、いつしか理想に近づくと、都合良く考えたのである。しかし、その手法は、理論的に最終的な姿を明確にしてこそ実現可能になるが、やみくもにそれを繰り返しても、ただ時間の浪費に終わってしまうこともある。それも、趣味性が高ければ高いほど顕著になるが、オーディオを趣味とした大半の人達のたどり着く執着点なのかもしれない。

    スピーカにおいて、誰にでも分かりやすい性能向上は、再生周波数範囲の拡大である。しかし、1980年代でもそうたやすいことではなかった。まず、周波数の低い方を拡大するには「オーディオマニア23」で紹介したような、巨大な低音装置が必要になる。しかし、一方の高い周波数はこのタイトル写真にある様に、既存の装置に付け加えればよいわけで、誰でも簡単に実験を始められた。あえて気をつけるとしたら、楽音でスピーカが破損しないように不要な低い周波数をカットしてからシステムに組み込むぐらいである。今でこそ20kHzの再生は、さほど珍しいことでもないが、当時はレコードにその様な周波数が記録されているかどうかさえ不明であった。また、前回の「インパルス応答」に関連づけるつもりはないが、正確な波形伝送という概念からは、高い周波数のレスポンスは、Hi-Fi再生条件の1つと考えられていた。

  当時は、トゥイータより高い周波数を受け持つスーパートゥイータとして使える存在は無く、あくまでも、現状のトゥイータを、僅かに高域再生に優れたものと交換するぐらいのことであった。それは、例えばユニット全てがコーン型なので、トゥイータだけでも能率の良いホーン型に交換してみると言うようなケースである。その背景の1つが、物理的な制約で、トゥイータは実口径30mm 程度では、13kHzあたりまでしかレスポンスがない。それは、ここでも紹介ているJA-0572(アル二コマグネット)等も同じである。それを実口径13mm程度の口径にできれば、20kHz あたりまで再生できる可能性がある。しかし、一方で能率が極端に低下してしまい、いくら磁気回路を強力にしてもそれを補えるほどではない。さらに製造も難しくなって、聴こえない周波数を扱う割には、高価すぎるという結果になるのである。

  そんな諦めかけた時、パイオニアがリボントゥイータを、遅れてテクニクスがリーフトゥイータを発売して、高い周波数応答への関心をぐっと引きよせたのである。人は、「強い関心を持っている時ほど盲目的になりやすい」、そのお陰で、超高域再生への足がかりとなるリボントゥイータやリーフトゥイータは飛ぶように売れていた。さらに、雑誌などでも評論家の聴感レポートは数多く紹介され、それらの殆どが賞賛されたものになっていたのである。ただ、それで期待通りの結果が得られたのかはなはだ疑問であった。一方で、個人的には、全く必要性を感じていなかったが、現状のシステムに簡単に付加して楽しむ人たちの為に、何か役に立つ接続方法が考えられないのか模索し、実際に無響室にシステムを持ち込み、クロスオーバー・ネットワークの定数を変更しながら、高い方の周波数特性を拡大する実験を試みたのである。最終的には、8kHz前後で-6dB でクロスオーバするのが最も無難で聴感上も良いという結果になった。(おっと、この話は1983年の話である)
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