2012/11/02

そよかぜ

 東京では、あまりメニューにないのが「ビーフカツレツ」である。関西では「とんかつ」よりもポピュラーで、ちょっとした「老舗の洋食屋」では、ごくごく普通に用意されている。しかも、家庭料理としても古くから高い地位を誇ってきた。かつて神田小川町で仕事をしていたころ、昼食には神保町あたりまでの広範囲をテリトリーとし、洋食などは片っぱしから食べ尽くしてきたわけだが、ビーフカツレツだけはなかなか遭遇しなかった。ただ、1軒だけ、三省堂の地下レストランに用意されていた。それからは、メニューから消されないように夕食にもよく食べに行った。

 そんなもの、「何が美味しいのか、ステーキの方が美味しいのでは?」と改めて聞かれても、「うーむ、難しい質問だ」と思う事がある。今だに、そういう習慣的好みは、母の料理に強い影響を受けていて、好みにも幼いころの育ちが出るのだろうか、その味については、なかなか忘れられないでいる。だから、あまり大した理屈もなく、ただ、ふと昔を思い出したように食べたくなる、というだけのことである。結局食べ物は、同じ食材でも色々加工を工夫することで、また違った趣が出ることがあり、ステーキと比較されても、聞かれる方には申し訳ないが、そこに理屈はないと思う。

 作り方は、とんかつとかなり共通し、豚肉が牛肉に代わっただけという印象が強いが、実際は少し違う。手順を紹介すると、薄切りの牛肉を3~4枚用意する。なければ3~4切れのお肉を叩きながら伸ばして薄くする。両面に塩、胡椒を少々、さらに、それぞれに小麦粉をふり、それを重ねて再び上下に小麦粉をふって、押さえながら薄く伸ばして形を整える。次に、揚げるための衣をつける。小麦粉、溶き卵、生パン粉をまぶして衣をつけ、180℃の油に入れて2~3分で揚げる。とんかつとの違いを挙げると、お肉の薄切りを重ねる前加工の仕方である。

 余熱でもお肉に火が通るので、あまり時間をかけないのが良いらしい。揚げる油としては、バターとサラダ油を適切な比率で作る。バターの占める割合は100%、75%、50%と調理する人の好みだが、一般的な作り方としては、バター100%と言われている。そうなると、揚げるというより、たっぷりのバターで両面を焼きあげると言うのに近い。三省堂の地下のレストランで作り方を聞いてみたが、やはりバター100%で作っていると説明してくれた。その揚げ方は、やはり、とんかつとは随分違う。しかし、関西での作り方は、必ずしもバター100%ではないようだ。

 こうやって、取材した作り方を思い出して文章にしていても、食意地が張っていて「ビーフカツレツ=とにかく食べたい」という短絡的な構図が出来るわけだが、日頃、嬉しそうに、「秋はビーフカツレツだ」と話をしていたら、「そんなにビーフカツレツ食べたければ、西新宿にあるよ!」という話を耳にした。ええ、新宿にあったの?と半信半疑になりながら、即、食べに出かけてきた。最近は、バター100%だとカロリーが高すぎるのか、バターの風味は少ない。興味があればぜひに確認されたい。もちろん、専門のステーキハウスで、他にも色々牛肉系のメニューは揃っている。
それはこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211199&app=WordPdf

補足:西新宿 明宝ビルB1 にある「そよかぜ」と言うお店(下図参照)。ビーフカツレツは数に限りがあるので、早めに出掛けてほしい。