2012/12/18

きつね蕎麦 どん兵衛

   今頃になると、「今度、蕎麦でも食べに行かないか」と誘われることがある。「そうね、近いうちに」と答えるのはいいが、相手がどのような蕎麦好きなのか、分からないで困ることもある。その手の蕎麦好きは、蕎麦を食べながら、作法だとか、由来だとか、意外にうるさいことを話すことがあるので、少々敬遠しがちである。好きなものぐらい自由にお店を選んで、時には、むかし通ったお店などを覗きたくなったり、空いた時間に一人で気楽に楽しみたいものだ。しかし、気心知れた蕎麦好き同士で行くなら、話はまるっきり違ってくる。お店に入っただけで少々興奮気味で、今日は、何にしようか、そんなお品書きを見ながら迷うこと自体が楽しくなるのである。

    本当の蕎麦好きは、意外に蕎麦の許容範囲は広い。私の友人も、近所の蕎麦屋で「ざる」をよく食べる。笊の上に蕎麦がくっついてゴムの山ようになっていても、器用にほぐしながら食べる。また、深大寺の粗挽き蕎麦も首を傾げながら「旨いな」と感心しながら食べる。その姿は、蕎麦を本当に愛していると思える。そういう彼とは、恐らく何処のお店へ一緒に出掛けても、それなりに満足してくれる筈だ。もちろん、老舗の蕎麦屋の話になると身を乗り出して、日本橋の室町砂場とか、神田のまつやの話をする。

 そんな彼が「これは結構旨い」と教えてくれたのが、日清食品の「どん兵衛のきつね」である。一見、老舗の蕎麦屋とは別世界のように思われがちだが、すぐ蕎麦を食べたくなった時、遠くの店まで出かけたくなっても、今時は、お店が混んでいて落ち着かないし、それを考えると億劫だったりする。一方、即席はすぐに飽きがくることである。なので、最近は、即席蕎麦を美味しくいただく方法を密かに研究しているらしい。ただ、蕎麦で一番重要なのは、やはり「つゆ」で、その美味しさが決め手である。蕎麦つゆが美味しくなければ、いくら喉越しの良い蕎麦でも、好きになれないようだ。最近醤油メーカーの市販の「つゆのもと」商品が大変美味しくなったので、つゆだけ、それらの商品を使って自作することも多いという。

 話を聞いているうちに、我々の年代ならではの拘った食べ方とも言うべき作法があるようだ。しかし、麺は変えようがないし、お揚げは最大の魅力でもある。それをどうするんだろうと思ったが、そこで、残された出汁と薬味に関して、幾つか選択肢を用意することのようだ。1つは、出汁を別途用意する、「煮立ったお湯に、花かつおを投入して薫りを取り、創味のつゆを加えて出汁にする、あるいは甘みを加えたいときは、ぶっかけつゆ(讃岐のうどん用)を使う」。2つ目は、薬味にわけぎを投入して生々しさを出す。3つ目は、一味や七味に代わって山椒や山葵を使いこなす・・・というものらしい。いずれにしても、「蕎麦をじっくり楽しみたい」という気持ちが根底に流れているようだ。ちょっとしたことだが、幾つになっても、真面目に蕎麦を楽しんでいる姿は、親しみがわくのである。