2012/12/04

新宿 東天紅


   一口に中華と言っても様々だが、ちょっとお昼を食べに行きたい中華のお店は、高級すぎては困るが、少し高級でないといけない。この限定的な言い回しは、本質的に中華で苦労してきた証しでもある。餃子やチャーハンを連想させる学生街にあっては二の足を踏むし、銀座の一等地にあっても入りにくい。品川に勤めていたころは、3軒ほどあったホテル内にある中華店によく出かけた。それで痛感したことがある。中華には当たり外れは少ないと言われるが、意外にそうでもない。そして、必ずしも本格的な中華料理が美味しいとは限らない。

  どのような店舗も、お客を呼び寄せるにはその立地条件が大切である。しかし、その立地条件が多少悪くても、他店とは異なる日本人向けの工夫で「美味しいお品」が用意され、それなりの競合他店を意識した価格で提供されるならば、条件反射的に思い出して、「それを楽しみに想いながら」お店に通う事が出来る。しかも、それは、多くのメニューで実現されている必要はない。特別高級料理では困るが、幾つかの主力になるシェフの自信作だけでも良い。

  今日紹介したいのは、新宿センタービル53階にある「東天紅新宿店」である。ビジネスマンだと、お昼休みに、ビル街を歩き、横断歩道の信号を待ち、センタービルのエレベーターで53階、という距離は、時間的に覚悟の必要な距離といえる。なのに、お客が絶えないのは何故だろうか。お客を引っ張る魅力がたくさん用意されているからである。お昼のメニーは、宣伝効果が高いので、どのお店でも、それなりのお品が提供されている。高価な夜のメニューに比べると、多少材料に違いがあるにしても、小安いからと言って一切手を抜かず、お店のコンセプトを貫いている筈だ。ここの東天紅のそれは、定食メニューの「酢豚」にその工夫の一端を垣間見ることが出来る。

  酢豚とは、衣で覆われた豚肉と大ぶりの野菜を甘すっぱいあんにからめた定番料理である。一口で言ってしまえばそれだけである。一般的に家庭でもよく作られるので、様々に工夫があったとしても、それは限定的だと思っていた。しかし、東天紅の酢豚は、豚肉の衣が意外にも堅目で、その中は、熱々のジューシーなお肉が収まっている。この少し硬めの衣を砕いた時の食感は良質の肉汁が溢れ出て、その堅さと熱さの対比が「独特の美味しさ」に繋がっている。そして、隣にある野菜の柔らかさが抜群に心地良く、「うーむこれは凄い」と感心したのである。たったそれだけ?と言ってしまえばそれまでだが、この食感を知れば、人生がまた少し豊かになるし大変印象に残り、後を引く事請け合いである。だから、近くのビジネスマンは「それを楽しみに思いながら」通う事が出来るのであろう。
ではこちら
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