2013/11/05

ディスカバリー12

   既に、何の役にも立たない部品達が、書棚に残されている。今度の不燃物の日には、必ず出そうと思っていても、つい「今でなくてもいい、いつでも捨てられる」と思って、そのまま棚に戻すことがある。時代を一緒にすごした品物は、なかなか捨てられない。だから、せめてその懐かしい品物の写真を撮ってから捨てようと思うのである。先輩方は、もっとそう感じることがあるに違いない。それが昭和を駆け抜けた男達の宿命なのであろう。

  以前「プランビコン撮像管の紹介時」にも書いたことがあるが、ビデオカメラに興味を持ったのは、社内で古い記事を探していた時に、たまたま見つけた「フィリップス4管式カメラのグラビア記事」だった。そこに載った写真と数行の文章を、何度も何度も読み返し「おー凄っごいな~」としみじみ心を揺さぶられたのである。その後、取材したJさんにその話をしたら、古い話(43年ほど前)なので、良く覚えていないと言いながら、そう誉めてもらって嬉しいと話してくれた。それが(36年前)きっかけである。そして、その気持ちに少しずつ油を注いでいたのが、同じ印刷所で作られていた「テレビジョン学会誌」である。それを毎月もらって読み漁り、「ほー、へー」とため息をつきながら少しづつ理解を深めていったのである。

    おおよそ静止画、動画を問わず撮像管を使ったビデオ・カメラと言うのは、搭載技術と画質との相関関係が直感的に理解できるようになるまでには、誰しも時間がかかる。一方、長年の経験のある会社の製品は、バランスに優れた画質を提供することがある。逆に、高いスペックが出ていても、新技術だけでは必ずしも思ったような「いい絵」が出るとは限らない、やはり、その違いにこそ経験に裏付けられたノウハウが存在する。撮影者も含めて、一般視聴者の多くはテレビの放送を漠然と見ていて、テレビと言うものはそういうものだと認識している。つまり、放送局で使われている標準スタジオ、ハンディー等、いずれのビデオカメラの画質をよく知っているのである。だからそれを下回る絵にしかならなければ、大いに不満が残ることになる。当時、業務用のビデオカメラを使うブライダル・プロダクションあるいは地方プロダクションでは、優れた画像を求める機運が高まっていて、それに適うビデオカメラを各社競って発売しようとする時期だった。その流行に肖かり、それらの画質を比較検討してもらうための紙面づくりに奮闘した思い出がある。この撮像管を観ながら、そんなことを思い出すことがある。

     それは、画面に現れる現象を、そのまま紙面で伝える、これがテーマだった。もっとも、波形で示せるような、1.振幅変調度、2.ガンマ特性、3.カラーベクトルなどは、パターン・ボックスに刺した透過型チャートを撮像し、そのまま波形モニターの管面を撮影すればよい。また、残像、ハイライト焼付けの違いは、ウインドウボックス撮像後、レンズにキャップをして僅かな出力を時間経過を追って多重露光してその違いを示した。また、サーキュラーゾーンプレートの撮像画面やスメア画像、ITE(カラーの楔)やレトマのパターン(白黒の楔)は、シバソク放送局用モニターCMM20-11(HR CRT 仕様)の画面を撮影した。その画面撮影には、6x6のボディーに4x5のレンズを装着し、垂直同期信号に合わせてレンズ・シャッターを駆動する回路を取り付けてシャッターのスタートのタイミングを統一して撮影した。この撮影技術を確立したことで、短い時間で発生するビートやモアレを正確に撮影でき、画面での比較が鮮明になった。もちろん、それを色分解したり忠実に印刷するために、印刷エンジニアにも細かい指示をした事は言うまでもない。このあたりは、テレビジョン学会誌はもとより、他誌で同様の撮影に成功している例を見ることはなかった。そして、それが MOVEment が好感された要素の1つだと思う。

  そういう時代に存在感を顕にし、業務用ビデオカメラ業界を牽引したのが「サチコン3管式ビデオカメラ DXC-M3」である。当時、業務用3管式ビデオカメラの主流がSMサチコンであったにも関わらず、MSサチコンを使い図形ひずみの低減や周辺解像力を改善した、画期的な仕様だったこともあって、多くのカメラマンから注目を浴びた。しかし、逆に「初期のサチコン膜」ありがちな残像という課題が残っていて、それが誌面上のデータでも他のカメラとの差となって現れた。上の写真は、そのMF(ミックスフィールド型=ソニーの呼び名)サチコン管S-2332である。偏向コイルが無い分コンパクトと言える(全長70mm)。
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211393&app=WordPdf

補足1:シバソク放送用マスターモニターCMM20-11は、IQ復調回路搭載である。特注のHR CRTによって中心650TV本、周辺600TV本の仕様。
補足2:撮影用6x6カメラ→ローライフレックスSL66SE こちらはフォーカルプレーン・シャッターだが、撮影レンズ→カールツアイス大判用135mmレンズは、レンズシャッターを装備している。これを光学的に連結するアダプタを専業メーカーに作ってもらって使用した。
補足3:ビームの収束・偏向方式の略称 SM→静電収束・電磁偏向、MS→電磁収束・静電偏向を指す。
補足4:ディスカバリーのPDFに使用している昔の製品写真は、4x5のフイルムをフイルム・スキャンしてそのまま使用している。