2014/04/11

タコ足のオリーブ漬け

  人には、それぞれ先入観を持った食材がある。海産物の中にもそれは存在し、その固まった先入観は、何十年経っても変わらず一生付きまといそうだ。中には、異様な形をしていて、無理に口にしたくは無いが、実際は意外に美味しいと感じる物も少なくない。古くから伝統的に、食べ継がれてきた食材にそのような物が多いが、それらをわざわざ用意しなくても生きていけるので、いずれその流れは終わるかもしれない。中でも、その代表格と言えるのがナマコだが、今では食べる人も少なく、大衆性は殆どない。それに対して、やはり、今後も食べ続けられるのはタコである。タコは、それ自体の味は希薄だが、その歯ごたえや食感を大切にする人にとっては、実は貴重な存在なのかもしれない。それを顕著に生かした食べ物が「タコ焼き」である。

  ソースの味にまみれた生地の中にプリッとしたタコがあり、そのプリプリ感は、幼い頃から食べ慣れた食感によって、無条件の美味しさとして受け入れられる。そこに、「タコ単独は滅多に食べないが、タコ焼きは好き」という人が多い理由と言える。そういう隠れた美味しさに、食材の面白さを感じることができないとすると、たとえば、タコをやわらかく仕上げるために使われる酢の味が先入観として残っていたり、あるいは、活きのよいタコの吸盤が口の中で吸いつくことによる、珍しさと気色の悪さを体験するなど、やや普通ではない楽しみ方もあるにはあるが、一般的な先入感としては、それ自体は「味気ない食材」にもかかわらず、どこの寿司屋にも必ず置いてある、めったに頼まないネタの1つという程度の印象である。

  そんな背景から、缶詰になっていると言われても、いきなり飛びつくような期待感は持てる訳はない。しかし、そのパッケージの美的感覚には、誰しも魅力を感じると思う。その缶詰の原産国でもあるスペインのお国柄かもしれないが、そこには、タコに対する食文化の水準の高さまでも滲ませる。さらにその食材に対する思い入れが、そのデザインに活かされていると感じられる。スペインでそれほど大切に扱われるなら、そこに伝統的で美味しい味付けがあるかもしれないし、骨まで?食べれるかもしれないし、多少期待してよいと思うのである。それにしても、スペインでもタコを最初に食べた人は偉いかもしれない。

  どのような先入観でも、いずれ払拭される時がくるとよい。まさか、あの「プリプリ感」のある食感を、ことごとく忘れさす缶詰だとは想定していなかった。缶詰という性質上、理屈では納得できるのだが、これほど「柔らかく仕上がり、オリーブオイルとよく似合う」美味しさになっているとは思えなかった。それが正直な感想である。味付けに、おそらくタコの肝というか内臓の一部が溶け込んでいたり、海水程度の塩分濃度が加えられていることから、お酒のつまみとか、海鮮サラダの具や、パスタソースには良く似合うかもしれない。意外にこの缶詰が美味しいことを知って、タコに対する先入観は少し変わったものの、美味しくなった物はやっぱり高いという先入観はさらに充実したものになってしまった。
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